第13章「ていと」 6-12 対人戦闘モード発動
「出会え、出会え!!」
攻撃力および防御力付与魔術をかける暇がなく、20人からなる護衛の元冒険者の戦士たち(隊長は元勇者である)が自慢の魔法の武器をもって飛び出てきた。本当はもっといるが、非番で休んでいる。
また、魔術師たちが容赦なく魔法の矢を先制でストラに集中した。
甲高い音を立て、光の矢が次々と破壊された正門にたたずむストラに命中した。この数を食らっては、よほどの相手でなくば、大ダメージは必須だった。
が、ストラはまったくの無傷で、よろめきもせぬ。
「!?」
「ま……魔法の楯か!?」
「いいからやれ! あれしきの楯なんざあ、貫けるだろうが!!」
40を過ぎ、(悪徳)冒険者を引退した元勇者が、やくざ者にふさわしい迫力で号令を出した。雄叫びを上げて護衛兵がつっこみ、ストラに対していっせいに魔法剣や魔法の斧が振りかざされる。みな、攻撃力+30~50はある高級品だ。流石にトルマス、そう云うところに金は惜しまない
ストラ、街中でもあることを考慮し、火器は使わず対人戦闘モードを発動。
20人で一斉に切りかかると云っても、たった1人に同時に20人も群がっては戦闘にならない。そこは、同時に攻撃できるのはせいぜい3~4人がせいぜいだし、それだって下手をすれば同士討ちになる。経験を積んだ戦闘集団であれば、1人か2人が四方八方から矢継ぎ早に攻撃し続けることになる。同時攻撃というか、多重連続攻撃だ。
ストラは、それを次々にさばけばよい。
1人めの剣打をぎりぎりで斜に入りつつ半身になってかわし、同時にスカった相手の側頭部に肘打ち。ストラでなくとも昏倒する強烈なカウンターだが、頭蓋骨が粉砕陥没して即死した。
すかさず後ろから突いてきた相手をさらに身をひねってかわしつつ、カウンターで後ろ蹴り。
相手が人形でも蹴ったみたいに数メートルもぶっとんで地面に転がるや、内臓破裂で血を噴き巻いて悶絶、死んだ。
続いて左右から上段、横薙ぎに剣を振ってきた2人は、人差し指と中指の二本で上段の剣打を払い受けて叩き折り、横薙ぎの剣はふり返りつつ蹴りを相手の手首に合わせてへし折ると当時に転身して反対の足で上段蹴り。それが大柄な戦士の顎に入って、首が270度ほどもねじれたまま面白いようにクルクル回って建物の壁まで飛んで激突し、地面に落ちて動かなくなった。
「うおおおお!!」
裂帛の気合と共に、ストラが大ぶりの蹴りの後で硬直している(と、そいつが思っている)絶妙なタイミングと必殺の速度で、ストラの襟首めがけて毛豚の首でも落とせそうな大戦斧を振り下ろした大男は、再びストラが紙一重の間合いで転身し、かわしたため、そのまま地面へ斧を突き立て、体勢が崩れた。と思ったら、転身したストラがそのままその顔面に拳を突き立てた。一撃で顔の半分も頬骨が陥没し、脳震盪でふらついたところをさらに強烈な前蹴りを食らって、爆破に巻きこまれたかのように両手両足を前方に伸ばしたかっこうで後ろに吹っ飛んで、立ち木に激突してその木をへし折り、自らも背中から逆くの字……いや、記号の<のようにへしゃげて、折れて砕けた木と共に地面に転がった。
とうぜん、もう、死んでいる。
瞬きする間に5人が死んで、ストラはほとんどその場から動いていなかった。
「え……」
さすがに、やくざ兵ども、動けなくなる。
(か、勝てるわけねえだろ、こんなやつ)
浮遊する照明魔術のもと、チラチラと互いに見合って、汗だくの互いの顔にそう書いてあるのを確認しあった。眼を見開き、吐く息が急に激しくなって、白い息が蒸気のように立ち上った。
「なにやってんだ、止まってんじゃねええ!!!!」
配下を戦わせている間に、魔術師たちに命じて攻撃力付与魔法、防御力付与魔法を自らへかけまくらせていた元(悪徳)勇者の隊長が、だみ声で叫んだ。
「とっととかかりやあがれ!!」
「じゃあ、てめえがやれや!」
「こんなバケモノとやりあうほど、給料もらってねえぞ!!」
やくざ兵どもが、叫んだ。
「なにおう!」
「てめえだけヨダレを安く分けてもらいやがって……勝手にやってろや!」
「てめえら、総帥が黙ってねえぞ!」
「御手本見せて下せえって云ってるんでさあ!」
「なん……!」
つきあってられぬと、もう、ストラが隊長めがけて眼前の空間より直接対人プラズマ弾を発射。
対人とは名ばかりの攻撃で、主力戦車とも渡り合える浮遊重装甲兵のパワードアーマーを破壊する威力がある。
このレベルの対物理魔法防御をいくら重ねてもあまり意味が無いうえ、そもそも魔法ではないので、対魔法防御も無意味だ。




