第13章「ていと」 6-9 丸投げで逃げた大将
加勢しようと思ったが、逃げるのが先だ。
またオネランノタルも、
(景気よく燃えるのはいいけど、燃えすぎるのもね……)
あまり調子に乗って、ザンダルが灰燼と帰すのもよろしくない。なぜなら、九つの牙を壊滅せしめた後、ザンダルはストラの物となるからだ。焼け野原を最初から再建する面倒や費用を考えると、必然そうなる。
眼くらまし代わりにボカボカと火炎弾をばらまくフエンに、オネランノタル、そのすべての火炎弾を捕らえる蜘蛛の巣状の網を展開。網にとらえられ、火炎がすべて空中に留まった。
「げえっ……!」
人間めいた唸り声を発し、フエンがすくみあがった。恐怖心で無意識のまま、凄まじい速度で脱出をはかる。
オネランノタルは、捕らえた火球をすべて自らの魔力に乗せて打ち返した。一直線に連なって飛んだ12もの火球が残像で線となってフエンに迫り、衝突する直前で螺旋に展開して、チェーンマインめいて縛りつくように絡みつくと同時に連続して炸裂した。
瞬間的な連続発破により、フエンは肉体を構成する魔力が散逸して、魔力中枢器官にもダメージが入った。そのまま炎の中で、粉々になって消滅してしまった。
(よっわ……!)
まさか、自分の放った火球を食らって消滅までするとはオネランノタルも読めなかった。行動不能にして、情報を得よう思っていたのだが……。
(まあいいや……バーレから来たのは、確実だろうし……あとは、どうしてバーレから来たのか……直接聴いたほうが早いね!)
オネランノタル、燃える家々の合間を移動しているピオラに向かって飛んだ。すぐさま接近し、
「おいピオラ、ピオラ!」
上空から声をかけられたピオラ、眉をひそめて見あげ、
「なんだあ、番人よお! すげえ爆発だったなあ! 倒したのかあ!?」
「倒したというか、勝手に死んじゃったよ!」
ピオラが少し安心したためか、眼の色が赤より青に戻り、また魔像の鎧も自動的に解除され、3Dモーフィングのように変形し、合体して巨大な青銀色の円盤に戻った。
それを次元庫に格納したオネランノタル、
「ホーランコル達に加勢しに行こうよ!」
「ホーランコルたちにい? どこに行ってるんだあ?」
「そりゃ、丸投げで逃げた大将のところだよ……イィーッヒヒヒッヒヒヒ……!」
ホーランコル、フューヴァ、そしてプランタンタンが向かったのは、ザンダルと同じ帝都衛星都市の1つで、最大の商業都市ノーイマルだ。ザンダルからは、荒野や農村を通り、徒歩で2時間ほどである。人口はザンダルよりはるかに多く、また冒険者の集まる街であり、さらに地方貴族の帝都滞在のための屋敷も多くある。帝都リューゼンに公宅を構えることのできるのは王族に限られているため、帝国内の14王国(3藩王国を含む)の数そのままの、14家だけであった。
もっとも基本的に官庁街、学術都市であるリューゼンよりノーイマルのほうが生活には便利だし、貴族子弟のための私校もある。
売り払われた旧フランベルツ地方伯爵の屋敷も、このノーマルにあった。元フランベルツ伯のフランベルツ氏は、現在、事実上伯爵家を滅ぼしたマンシューアル藩王の庇護のもと、同じくノーイマルにある使用人付高級アパートで悠々自適かつささやかで穏やかな生活を送っていることは、第4章に記してある。
ザンダル太守のトルマスの家も、ノーイマルにあった。
正確には、別宅だ。
太守なので、ザンダルの公宅のほか、リューゼンに官舎を与えられているが、そこには家族だけ住んでいる。
ちなみに、家族や一族、さらに皇帝府の役人たちは、トルマスがザンダルを裏から支配する組織の総帥であるなどと、露も知らぬ。想像もできないだろう。それほど、ザンダルはそういう裏世界に無縁か、関わっていても多少の賄賂をもらって便宜を図るのが関の山の小役人だと思われていたし、じっさいそうだった。
ヨダレの流通を牛耳るまでは。
ヨダレこそがトルマスの権力の源であり、また、皇帝府に流れ、皇帝騎士や特任教授、さらには皇帝本人にすら使用されているヨダレを、まさかトルマスが牛耳っているとは、誰にも気づかれていない。
では、どうして小役人のトルマスがザンダル……いや、帝都のヨダレを牛耳るようになったものか……。
これは、トルマスの才覚というより、ヨダレを帝都に売る側の思惑が大きい。
そのものたちにとって、トルマスが最も操りやすい適任者であった、というわけだ。




