第13章「ていと」 6-6 ゴーレム・パワードスーツ
防御魔法が働き、即死は免れたが、その牙は魔術防護壁を貫いてノートリーノの肉体に喰いこんだ。
あまりの衝撃と激痛に、そんな経験をしたことのなかったノートリーは、パニックとなった。
「……こいつが!!」
ヨダレにより覚醒した状態もあって、痛みの中でも眼をむいて魔法を放ち、至近から魔獣に極低温と氷の矢を放った。
それを食らった魔獣が、怒りにまかせてノートリーを振り回し、咬みちぎってしまった。
「あっ、このバカ!」
あわててオネランノタルが指令を与えたが、上半身と下半身に分かれて建物の壁にぶつかったノートリーは、容赦なく血と内臓をぶちまけて地面に転がった。ヨダレの覚醒作用にによりノートリーはそれでも生きていたが、それは反射で動いてるだけで、意識はもう飛んでいた。
オネランノタルはノートリーもあきらめ、高速でザンダルから脱出したフエンを追った。
空中に舞ったピオラへ正確に魔法で強化されたクレンクインの矢を命中させた皇帝騎士のスィッスヴァルイェンヌ、建物の屋根の上でわが目を疑った。皇帝騎士たちはエルフなので、みな夜眼が効くし、視力もよい。
ピオラの寝泊まりしていた倉庫の屋根を内側より突き破って飛んできたのは、直系が3メートルはある巨大な円楯に見えた。
その楯とも、円盤とも、薄い円柱ともいえる銀青色の物体が、ピオラの前に止まり、矢をはじいた。
同時に、円盤が変形……分解し、一瞬で自動的にピオラにまとわりついた。
まるで、特撮ヒーローかアニメの変身シーンだった。
ピオラがそのまま体操選手めいて空中で身をひねり、見事に着地した時には、全身の主要箇所に、モダンなデザインの部分鎧をまとっていた。
これは、ピオラの戦闘力強化を兼ねた暇つぶしでオネランノタルが開発した、一種の魔像……すなわちゴーレムだった。
ゴーレムなので、ある種の自律兵器である。また、ただの鎧ではなく、魔力によって稼働する一種のパワードスーツであった。
攻撃力、防御力とも、数倍になる。
(な……なんだ、なんだあれは!? 魔法の鎧か!?)
(いつの間にあんなものを!?)
細い通りの端や角よりそれぞれその光景を認めたイェムマールィギェンヌとユンルィーミッチェンヌ、さすがに迂闊に攻撃をする気にはなれなかった。
かと云って、囮や露払いの無頼兵どもは、もうみな死ぬか逃げてしまって、誰もいない。
そこへ、二剣流のイェムマールィギェンヌに、クレンクイン使いの女皇帝騎士スィッスヴァルイェンヌが、30キロはありそうな大型ボウガンであるクレンクインを軽々と担ぎながら屋根を伝って走り、着地して合流した。
「おい、どこまでやるんだ!?」
「どこまでって……」
イェムマールィギェンヌも顔をしかめる。
相手がちょっと悪い。
ピオラだけならまだしも、上級魔族もいる。
上空では、そのオネランノタルとフエンが攻防を繰り広げる音と閃光が轟き、さらには攻撃の巻き添えで地上から炎が噴きあがるのが見えていた。
「あっちも、分が悪そうだ!」
かと云って、さっさと撤退してよいのかどうかの判断がつかなかった。
どうせ裏仕事であるし、命を懸ける義理も必要もないのだ。
が……。
ここでパッと遁走し、怒った「九つの牙」に組織との関係やヨダレの常習を世間へばらされてはたまらない。面倒至極を通り越し、社会的に破滅する。
(クソッ、どうせ他にもヨダレにおぼれてるやつなんざ、いくらでもいるのに!)
ハズレくじを引いたのか、ヨダレを含む報酬に眼がくらんだ自分たちを恨むしかないのか。
と、体勢を立て直し、周囲の気配を探っていたピオラが、距離が近いほうのユンルィーミッチェンヌめがけて突進した。
「……そう簡単に、逃がしてもくれなさそうだ!」
イェムマールィギェンヌが、加勢に走る。
こうなればどうしようもなく、スィッスヴァルイェンヌも援護に入るべく、ひと飛びで辻塀に飛び上がり、そこから無人の建物の屋根に飛び移った。大型クレンクインを構え、ピオラを狙う。
「ううううぅるぅうがああああああああ!!」
ピオラの雄叫びが、夜の闇をひき裂いた。青く北方の泉のような眼が真っ赤に光り、重戦闘モードに入る。さらに、オネランノタルのゴーレム・パワードスーツで、戦闘力が数倍増だ。片手で重戦闘武器を振りあげ、遮二無二ユンルィーミッチェンヌめがけて走りこみざまに叩き下ろした。




