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第13章「ていと」 6-4 元勇者の死

 元勇者たちのうち、1人は魔竜を初めて見たが、1人は戦った経験があった。


 腐っても勇者、攻撃力+50付与という皇帝騎士にも匹敵する魔法の武器に加え、攻撃力付与魔法も加わって+70ほどにもなっていれば、この規模の魔竜にも勝てなくはない。むしろ勇者が2人がかりでは、勝てる相手と云えた。


 が、連携も無ければ仲間意識も無いのでは、それも難しい。


 まして、勇者に最も肝要な「勇気」が消え失せていては……魔法の剣も、宝の持ち腐れであろう。


 戦ったことのない1人は、魔竜を見た瞬間にビビって逃げた。本人は、体勢を立て直すための一時退却のつもりだったが、その場からいなくなったのでは同じことだ。


 もう1人は、2人で攻撃すれば勝てる相手と判断したが、肝心のニワカ相棒が脱兎のごとくいなくなったので、


 「コンチクショウが!!」

 やはり下がった。


 そもそも、こんな相手に下がっていては、とてもではないがオネランノタルの相手にはならないのだが、完全に少女のような見た目やカルい雰囲気で敵を判断していた。


 魔竜の魔力は変質し、漆黒の体液や吐きつける魔の黒炎ですら猛烈な魔毒である。


 魔竜が再度空中に飛び上がり、いったん下がって建物の影に潜んだ闇勇者の1人の真上から襲いかかった。


 「……!!!!」

 生半可な防御魔法付与が、逆に恨めしい。


 人の腕もほどもある漆黒の鉤爪に張り倒され、嬲り転がされ、真っ黒い毒の息を吐きつけられて、剣をふるう余裕もなかった。


 粘性のある液体めいた、重油のような魔力が全身にこびりついて、じわじわと自由や呼吸を奪った。


 「ゴボ……ゴホッ……グブァア……オブゥグボォ……!!」

 即死していれば、どれだけ楽だったか。


 瞬く間に土気色に変色した顔に白眼をむいて痙攣、また瞬時にしてボコボコと悪性腫瘍が発生して目も当てられぬ容姿となり、どす黒赤い血の泡を吹いて動かなくなったところを、魔竜はその勇者を捨ておいて、激しく走って距離をとっているもう1人の勇者に向かって飛んだ。


 空には襲撃隊の放った証明魔法がまだ幾つも浮かんでおり、その光に影を作って、魔竜は一直線に勇者を襲った。


 その勇者は24歳、若くしてヨダレにはまり、裏世界に入った。威勢がよく、腕もあったが勇気が足りなかった。元勇者とは聞こえが良いが、結局は用心棒稼業だ。


 しかし、魔竜を知らなかったので、自らを追い越して通路に下りた魔竜に、ヤケクソで立ち向かった。


 「こいつがあああ!!!!」

 この場合、勇気ではなく無謀だった。無知は、無謀に直結する。


 魔竜め、魔法剣を振り上げて切りかかった闇勇者めがけ、胸の辺よりヤマアラシのトゲのような、数十センチはある魔力の刺を数十本も撃ちつけた。


 並の攻撃なら、防御力付与魔術や魔法の防具で防ぐのだが……。


 オネランノタルの作り上げたこの恐るべき魔竜の攻撃は、+20程度の防護魔法を易々と貫き、散弾式対人クレイモア地雷も真っ青の威力で勇者の全身に突き刺さった。


 「……グ……!」


 激痛も麻痺するような猛毒が瞬時に回り、また心臓にも突き刺さってほぼ即死だったが、刺の先に銛のような返しがあって、魔力で操られた刺がいっせいに引き抜かれた。


 勇者の身体が持ち上がって、自重と引き抜く力に耐えられずに、爆発するように肉や肋骨や内臓が衣服や軽装甲ごと細かく引き裂かれて飛び散った。


 そのまま地面に転がったときには、もう、死体であった。


 魔竜はそのまま上空のフエンの気配をつかみ、オネランノタルを援護するべく、一直線に飛び上がった。


 と、その魔竜めがけてどこからともなく高速で放たれた冷気の塊が激突した。


 魔力の塊ですら活動を止めるほどの極低温により、魔竜は一撃で凍りついて空中に制止した。


 その一瞬に、大気を揺るがす振動が魔竜を襲って、粉々に砕け散った。

 魔力中枢器官が破壊され、魔竜は蒸発するように消え去った。

 「……本命が来たな!! 特任教授ってやつかい!?」


 嬉々としてフエンとやりあっていたオネランノタルが叫んだが、声に緊張感を孕んでいる。


 (組みあがった・・・・・・のか……!?)


 周囲の魔力を探知し、そう状況を判断したフエンは、その場より一目散に脱出した。もう用は無いし、巻きこまれてはかなわぬ。


 「逃がすか、情報をよこせ!!」


 6歳ほどの少女のような姿のオネランノタルの四つ眼と、額の朱色のシンバルベリルが光った。

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