第13章「ていと」 6-3 歓楽街の死闘
狭い路地にひしめいていた無頼兵どもをピオラは容赦なくなぎ倒し、殴り殺し、蹴り殺した。まったく、敵にもならない。一方的な鏖殺だった。
まさに路地は死屍累々となり、血が凍って滑った。
建物の壁や辻塀に、人間の破片や大量の血痕がこびりついている。
こんなもの、ガフ=シュ=インで一軍を相手にしたときに比べれば、準備運動にもならなかった。
照明魔法に照らしつけられる死体の山に、瞬く間に半壊した無頼兵たち、立ちすくんで惨状を見据えた。
雪が、降ってきた。
「に……逃げろ!!」
誰かが叫び、我先に武器を捨てて逃げ出した。
ピオラは、追わなかった。
いつでも、塀の影に隠れられる位置だ。
ピオラをずっと狙う殺気を、敏感に感じていた。
「さすがだ、トライレン・トロール。そう簡単にはゆかないか……」
イェムマールィギェンヌとユンルィーミッチェンヌが、闇の中からその大柄な身体をひるがえし、挟撃した。声の方角とは、全く違う方向だった。
それぞれ、+60と+70の魔法剣だ。
直撃したならば、ピオラとてただではすまない。
ピオラはほぼ本能で対応し、血飛沫を浴びて真っ赤に染まった白い巨体を躍動させる。
多刃戦斧を地面に突き立て、それを支えに空中へ踊りあがった。
2人の皇帝騎士の両手持ち剣と二剣流が、船の錨のような巨大な戦斧を叩き、火花が散った。
その空中のピオラめがけ、3人目の女騎士スィッスヴァルイェンヌが中距離から+55の魔法のクレンクインを発射する。通常であれば滑車で金属弓を引く大型ボウガンともいえるものだが、魔法武器なので自動かつ一瞬で弓が引かれ、高レベル魔術師の魔法の矢クラスの矢を放った。
クレー射撃めいて、獲物が移動する先を予測し、正確に撃ちこまれた矢が、ピオラの脇腹に突き刺さった。
その時、上空ではオネランノタルと魔族フエンが激しい攻防を行っていた。
フエンの役目は、闇勇者2人の前にオネランノタルを誘導することだったが、
(こいつ……生半可な力ではないぞ!)
フエン、圧倒的なオネランノタルの魔力に、早くも翻弄されていた。
「イィイイーーーーーーーッヒヒヒヒ!! アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!」
凶気的なオネランノタルの笑い声が、寒風に乗って響いた。
互いに魔力を直にぶつけあい、また、魔力から直接エネルギーを取り出して、火炎やスパークに変換してぶつけ合う。
その光や轟音が地上にも届いたが、地上ではピオラの殺戮で無頼兵はそれどころではない。
また、相殺しきれずにどこかへ飛んで行った火珠や球電が街に落ち、建物を吹き飛ばして爆発、炎上した。もちろん、中にまだ人がいる家もある。
「これとでも遊んでいろ!!」
冷たい夜の闇にオネランノタルの魔力が強力に渦巻き、その束が生き物のように独立して動き出す。
魔竜だ。
(魔竜も生み出せるのか!!)
フエンでは、同じく魔物を生み出すにしても、せいぜい魔蟲だった。
その時点で、同じ魔族でもレベルがケタ違いであることを意味する。もっとも……魔力で魔物を生み出せるだけでも、かなりの高レベルなのだが。
フエン、端から勝とうとは思っていなかったが、これでは闇勇者たちの前に誘導する仕事も難しい。
いや、誘導したところで、人間がかなう相手ではない。
準魔王クラスである。
勇者でも、相当のレベルの勇者でなくては、相手にならないだろう。
まして魔薬の常習者では、話にならない。
だが……。
(勇者くずれどもも、囮のはず……)
特任教授2人が、強力な対魔族魔法をもって、オネランノタルを仕留める手はずだった。
もちろん闇勇者どもには、教えていない。
(それの巻きぞえさえ、食わなければ……!)
特任教授たちは、たとえフエンが効果範囲内にいても、容赦なく術を使う。
オネランノタル相手に、フエンを庇ったり、助けたりする余裕はないからだ。また、そのことはフエンも分かっていたし、たとえフエンが特任教授役だったとしても、そうする。
全長が20メートルはある細長いタイプの魔竜が咆哮を上げ、フエンに踊りかかった。
……と、思いきや、直前でフエンをスルーし、真っ逆さまに落ちて地上へ向かった。
「……うわあああああ!!」
襲われたのは、2人の闇勇者たちだ。




