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第13章「ていと」 6-1 皇帝騎士と特任教授

 しかも、小心者ゆえに、手配を終えるとさっさと他の8人と共に姿をくらました。


 これが、九つの牙の秘匿性につながっている。

 現場指揮官として後を託されたのは、誰あろうスタールだ。


 (ケッ……小役人が……今に見ていろ。こちとら、とっくにイジゲン魔王様に忠誠を誓っているんだ、よ……!)


 それをまったく表に出さないのは、流石であった。


 「先生方、こちとらあ軍隊じゃあねえ。先生方に兵隊を率いてもらうつもりはございやせん。むしろ、兵隊どもを隠れ蓑にして、トロールや背後にいるっていう魔族を確実にぶっ殺していただきてえ」


 などと云うが、スタール、この5人の情報も念のためフューヴァ経由で伝えてある。


 「わかった。まかせろ」

 「報酬は、間違いなく頼むぞ」


 本部組織でもあるザンダル総督府の一室で、5人が鋭いがヨダレに澱んだ眼をスタールに向けた。さすがに皇帝府の紋の入った装束を着るわけにはゆかず、私服である。その上に、防寒用フード付ローブを着こんでいる。


 3人の皇帝騎士は、全員がリューズィリィ皇帝エルフだ。従って大きい。部屋が小さく見えた。元より凄腕の戦士だが、皇帝騎士としては中の中~下という腕前だった。とはいえ、並の勇者よりはずっと強い。


 リューズィリィエルフにしては細身で小柄(それでも190センチはある)な男が、イェムマールィギェンヌ。魔法効果+60の大小細身剣の二剣流の達人だった。


 逆に大柄で、220センチはある大男がユンルィーミッチェンヌ。同じく魔法効果+70の両手持ち大剣を使う。


 同じく鍛えて筋骨隆々、210センチはある女騎士がスィッスヴァルイェンヌで、ボウガン使いである。もっとも、かなり大型の、滑車機構で弓を引く、ライフル並の威力があるクレンクインだが。魔法効果は+55で、魔法で鋼鉄製の弓を引き連射も可能な魔法の武器だった。


 みな瑠璃色の眼と濃藍こしあい色の髪、薄褐色肌をし、精悍ながら薬物常習者らしく線の細い繊細な顔立ちをしている。


 大魔神メシャルナーが要石として「重し」をかける次元のひずみ、次元の隙間より現れる未知の怪物どもをひたすら駆除、駆逐するという、命を懸けた日々の激務に精神が耐えられないのだ。


 それは、2人の特任教授も同じだった。


 ホルストン出身の水と氷使いのノーリトーは36歳の男、自然魔術の研究者である。ガントック出身のサペッカは28歳の女、風と音響魔術の研究者だ。


 両名とも研究者として協会に入れるほどの優秀な魔術師だが、実地実戦として特任教授に推薦された。


 が、不幸だったのは、2人は根っからの研究者タイプで、実地実戦は苦手なのだ。


 ここまで生き残っているのだから、実戦の腕前も生半可ではないことは確実だが、精神が先につぶれた。


 そのため、ヨダレに手を出したのだ。


 特任教授を辞せばそれでよいと思われるが、推薦を受けておいて生死を賭けた連日の激務のストレスに耐えられないから辞めますでは、協会内での出世は絶望的、下手をすれば除名もありえる。辞めるに辞めれず、かといって激務にも耐えられず……という悪循環だった。


 その夜……。


 人気ひとけが無くなり、閑散としたザンダルを、200人もの無頼兵が街はずれの貸家めがけて殺到した。


 ……と云っても、無人になったわけではない。

 危険を察知した半分ほどの人間が避難しただけで、半分は残っている。

 空気を読まない、あるいは事情を知らない客も、何人かいた。

 「なんだ、悪い風邪でも流行ってるのか……?」


 農村は今時期ヒマなので、少し金のある農民などは周辺の村々よりザンダルに通い詰めるほどだが、いざ半月ぶりに来てみたら、様相が一変しているので驚いた。


 「どけ、どけ、死にてえのか!!」


 殺気だった一団が通りを走り抜け、5人ほどの若い農民たち、震えあがって端に避けた。


 「な、なんだあ……!?」

 「抗争じゃねえか!?」

 「冗談じゃねえ……!」

 この5人は、運が良かった。

 その場でザンダルを脱出し、結果、助かったのだから。

 「囲め、囲め!」

 ひっそりと暗い貸家を、幾重にも無頼どもが取り囲む。


 みな松明を持っていたが、傭兵として参加した冒険者くずれも多く、魔法照明も煌々と焚かれていた。

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