第3章「うらぎり」 1-1 行商ではない
第3章「うらぎり」
1
ギュムンデから、同じくフランベルツ主要都市のひとつスラブライエンまで、山間地帯や平原、そして田園風景を超えて約八日であった。途中、大小の村が二か所あり、水や食料を仕入れることができた。ま、普通の旅といったところだった。途中の森では、山賊が出るという警告を最初の村で受けたが、現れなかった。
現れたところで、何の障害にもならないのだが……。
「さすがに、ここまで来るとギュムンデの煙も見えやせんね」
森を抜けて、プランタンタンがつぶやいた。
「…………」
ペートリューもフューヴァも、何も云わなかった。
振り返るような過去は何も無いつもりだったが、いざ、街が本当にああなると、やはりショックが大きい。
しかも、それが一緒に荷馬車に乗ってぼんやりと周囲を見やっている一人の若い女性の仕業だというのだから……。
ストラは、この数日、何も云わぬ。もっとも、元から口数が少ないので、皆、別に気にもとめていない。
ストラは、常時周囲数十キロに三次元探査をかけ、危害を加えそうな対象を監視している。
だが、この中世と近世を合わせたような世界において最も危機対象である魔力子(という仮定義の未知の素粒子及びその素粒子から得られる未知のエネルギー)の凝縮体「シンバルベリル」が、生物の体内に隠されるとその魔力子の大きさ、濃さに関わらず探査不能というのは、流石のストラも予測していなかった。
(当該世界で、今後機械文明が発達すると仮定すれば……おそらく……シンバルベリル文明になる……)
未だ、この世界の人間は魔力を超常現象の源としてしか認識・使用しておらず、純粋な動力源として使用できるに至っていない。そこがブレイクスルーすれば、魔法文明とも魔力文明とも云えるものになる可能性は高い。
(フフ……SFファンタジーみたい……)
思わず、ストラは好きだったアニメを思い出して、笑った。
「あ、次の村が見えてきやしたよ」
手綱を取るプランタンタンが、呑気な声でそう云った。
荷馬車は田園地帯に入っており、小麦(に似た穀物)と、
(里芋……?)
ストラがどうサーチしても、里芋に近い芋状地下茎が育っている丸い葉の大きな植物の畑が広がっていた。
(サトイモなんか食べるんだ……?)
ぼんやりとそんなことを考えているうちに、やがて荷馬車はリーター村に近づいた。
「……」
道を、村人に交じって兵士が歩いている。
もっとも、最低限の武装だ。剣だけの者、護身用の短剣だけの者、剣すらない者もいる。ただ、みなフランベルツ家の紋章や軍章の入った衣服……つまり、軍服を着ているので、兵士と分かる。この軍服を着ているかいないかで、たとえ中身の人間に大差なくても、正規の軍人か野盗かという違いになる。
「止まれーッ」
木杭の柵で囲まれた村の入り口で、槍を持った兵士が二人歩哨に立っていて、荷馬車を止めた。
「行商か? 何を商っている?」
「酒か? 許可証は持っているか?」
女ばかり四人、しかも御者がエルフという少し変わった一行に、兵士達も不思議そうにしている。何人か、村人も集まってきた。
「通行許可証がいるんでやんすか?」
プランタンタンが振り返った。フューヴァが前に出てプランタンタンの隣に座り、
「どっちにしろ行商じゃないから、許可証なんか無いよ」
「行商じゃないなら、そのでかい酒樽はなんだ?」
「ホントに酒を売るんなら、もっと樽が多いだろ。これは……好きなやつがいるんだよ、仲間にな」
「お前らで飲む分だと!?」
兵士の一人が笑う。
「よっぽど好きなんだな。まあいい、で、どこへ行く? スラブライエンか?」
「そうだよ」
「商売じゃなかったら、何をしに行く? 夜の商売にゃ見えんが……」
兵士が目ざとく、ストラの腰の奇妙な剣へ目をやった。
その視線に気づき、フューヴァ、
「マンシューアルと、キナ臭くなってるそうじゃないか。傭兵くらい募集してるだろ?」
「傭兵だって!? おまえらが!?」
兵士たちが、眼を丸くする。
「とても、役にたちそうにないな」
「ばか、アタシたちは従者だ。傭兵は、こちらのストラさんだよ」
 




