第13章「ていと」 5-12 ゾールンについて
「ゲーデル山の上……山頂近くで?」
「分からんよ。私が見たわけではない。人づての、まったくアテにならん話だ」
(なるほど……一定の場所に影だけが見えるということは、この世界を中心に、次元のはざまをグルグル回っているのか……? それに、もしかしたら魔王マーラルは、いまだ市国と共に次元の海を漂流しているのかもしれんな……)
ルートヴァンはそう判断し、
「分かった。いろいろとかたじけない」
そう云って丁寧に礼をした。
「もう、いいのか?」
「最後に。魔王ゾールンについて……何か仙人から聴いていないか? 浄限の勇者タケマ=ミヅカ様が戦って、倒しきれなかったという古代の魔王だが」
「ゾールンか……」
オッサンが、小さく嘆息した。
「御存じで?」
「あいつは、倒せんよ」
「どうして?」
「既に、倒されている。大昔に、何者かに倒されて封印された姿が、アレなんだ」
「し、しかし、封印の先から魔力で干渉を」
「逆に云うと、その程度が精一杯ということさ。まして、かなり前にチィコーザ王がどこか遠くに移封したろう」
「いかさま」
「封印したことをもって倒すというのではなく、封印した相手をさらに滅する必要があると仮定した場合、そのためには、移封先まで倒しに行かなくてはならんぞ?」
「そのつもりだが……」
「やめたほうがいい。あいつは、それだとしても倒せん。仙人様も、浄限の勇者様もかなわなかった相手だ。無理だ」
「どうして、かなわなかったのだ?」
「単純に、強いからだよ」
「ほう……そんなに」
「異次元魔王……その銘からすると、異なる世界から到達したのか?」
「そうと聴いております」
「ゾールンも同じだ」
「なんと……」
「しかも、何体だかに分割されて、こう……いろんな世界に、同時存在として、バラバラに封じられているらしいぞ」
オッサンが手を振って身振りを交えながら、そう解説する。
「そんなことが?」
「ただでさえ強いのに、もしその分体どもが1つになったら、手もつけられんだろう。だから、余計なことはしないほうがいい。放っておけ。封印されている間は、チンケな魔力干渉が関の山なんだ」
「ゆえに、タケマ=ミヅカ様も、既にある封印を護るだけの処理を?」
「そういうことだ」
「なるほど……」
「異なる世界から来たものは、この世界の法則が通じない。分かるだろう」
「いかさま」
「異次元魔王がどれほど強いかは知らんが……ゾールンはケタ違いだ。放置するに限る。異次元魔王でも、おそらく倒しきれまい……」
「……分かった」
ペートリューが、そう答えたルートヴァンの表情をチラッと盗み見たが、
(ぜんぜん分かってない顔です~~~)
そう思って、リヤーノの瓶をオッサンに負けじと傾けた。
「では、我らはこれで。いろいろ御教授いただき、感謝いたします」
ルートヴァンが、そう云って改めて礼をした。
「御教授というほどのもんでも……とにかく、余計なことはしないでもらいたい。迷惑だからな」
「帝都を去るときに、もし店にいれば、御挨拶に寄りましょう」
「寄らんでいいよ」
「まあ、そうおっしゃらずに……聖下も、オッサン殿に御会いしたいでしょう」
「異次元魔王が?」
「いかさま」
「まあ……そうだな。もし可能であれば……観てみたい」
「では、そういうことで」
「ああ……」
「いましばらく、ここに?」
「ああ」




