第13章「ていと」 5-5 オッサンを頼る
「陛下や、学院長には?」
「聴いてみたけど、知らないそうだ」
「そうですか……」
キレットも、大きく息をついて自らの凝った肩をドンドンとたたいた。
またネルベェーンも血走らせた大きな目をしばしばさせ、
「殿下、この作業は、いつごろまで行うことが可能でしょうか」
「いつ頃まで……と、云ったって、何の成果もないうちに西へ向かっても、それこそ本当にただ放浪するだけになるぞ」
「しかし、この調子では、一定の成果を得るまで年単位での滞在も覚悟しなくては……」
「む……確かにな」
珍しく、ルートヴァンも重い息を吐いた。
「殿下、ここは、やはりあのオッサン殿に何かしら教えを乞うたほうが……」
「オッサンにか」
「はい」
ネルベェーンの提案に、ルートヴァン、うなずいた。
「そうだな……いよいよこうなっては、最後の手段に頼るか。さっそく、今夜にでも接触してみよう」
後の探索をペッテルに託し、その日は早めに切り上げ、一行は数日ぶりに例の肉団子屋へ向かった。
というのも、あの日以来、オッサンを避けて違う店で食事をとっていたからだ。
「……いないようだな」
相変わらず混雑してる店内を見渡し、ルートヴァンがつぶやいた。
「おい、すまん、いつも来ている古本屋の……」
「ああ、ここ数日、御見えになりません」
女給がそう答え、ルートヴァンが驚いた。
「なんだって?」
「たまに、プッツリと来なくなるんですよ。そうして、またフラッとやって来るんです」
「何日くらい、来ないのだ?」
「さあ……長いときは、何年も来ないときもあったそうです」
「何年も!?」
「はい……私が勤めてからは、4か月くらいが、いちばんあいだが空きましたかね」
「どこに行ってるんだ? 他の店か?」
「さあ……」
「邪魔をした」
ルートヴァンがあわてて店を出て、3人も続いた。まっすぐ、古本屋へ向かう。
閉まっていた。
「殿下、もう閉店時間では?」
確かに、既に薄暗い。
「そうかもしれんが……」
ルートヴァンが、杖を掲げて、屋内の魔力を探った。魔力分身の店番の少年がいれば、探知できる。
「……誰もいない。いないぞ!」
ルートヴァンがそう叫び、がっくりと肩を落とした。
「どうなってるんだ、あの御仁は!」
「殿下、仕方ありません……明日から、また地道に作業を続けましょう」
キレットに云われ、
「そうだ……な……。ま、たまにはこっちも確認して、オッサンが帰ってきているかどうか、確認しよう」
「はい」
4人が、とぼとぼと小雪の振り出した帝都の小道を歩いて、それぞれの宿に向かった。
それからさらに数日後、相変わらず何の成果もなかったが、
「ザンダルで、何かしら騒動があったようだ」
ルートヴァンがそう云いだした。
「ザンダルで? オネランノタル殿から、報告があったのですか?」
キレットの言葉に苦笑交じりでルートヴァン、
「何もない。魔力通話で話しかけても、後で報告するとだけ云って、切られた」
「はあ……」
キレットとネルベェーンには何が起きているのか想像もつかなかったが、ルートヴァンは楽しそうに、
「何やら、面白そうなことをやっているらしい。ザンダルの方角から、黒煙が上がっていたという証言もある」
「え、まさか……戦闘を……!?」




