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第2章「はきだめ」 8-6 長居は無用

 そのまま、ギュムンデの中心部が巨大な蟻地獄のようになって、土砂ごとかつて市街を構成していた物体が擂鉢スリバチの底に吸いこまれて行くのを観測する。ギュムンデは、外周にわずかに残った構築物をのぞいて完全に破壊され、その構築物も原型を留めていなかった。膨大な量の噴煙が立ちのぼり、周囲の村々から観ることができた。


 「……どうなってんだよ……ありゃあ……!!」


 荷馬車を待機させていた村から、まさにギュムンデの中心部で火山の噴火でもあったような光景を見やり、フューヴァが固まりついた。何度も地震が起きたかと思ったら、連続して爆発音が轟き、そしてあの大噴煙だ。他の村人は気絶する者、天変地異かと家の中で震える者、そして同じように愕然と天まで上る噴煙を見やって立ちすくむ者と、様々だった。ギュムンデに経済依存する周囲の村や町は、大打撃だろう。が、そんなレベルの話ではない。一つの都市が、そこに住む人々ごと完全に消滅したのだから。


 「やれやれ……こりゃまた、ドハデにおやりなすったでやんす」


 呑気な声で、宿として借りた小屋から出てきたプランタンタンが云い放った。


 「ストラさんの仕業だってのかよ!?」


 「逆に、あんなことができる御方が、旦那以外にいるのか聞きてえもんでやんす」


 「マジで云ってんのか……!」


 半ば青ざめてつぶやくフューヴァを見やり、プランタンタンがニヤッと笑って、


 「怖気おじけづきやあしたか? フューヴァさん」


 「なっ……バカ云ってんじゃねえ!! のの、望むところだってんだ! ストラさんを使って……のし上がってやるよ!!」


 「その意気でやんす。ゲヒッ、シッシシッシシ……!!」


 と、いきなりけたたましい笑い声がしたかと思ったら、小屋から出てきたペートリューが出入り口のドアに身体を預け、腹を抱えて笑っていた。酔っているのもあるが、笑い方が尋常ではない。


 「……飲みすぎて、おかしくなっちまったのか……?」

 「さあ……思うところがあるんでやんしょう……」


 ペートリューは崩れるように地面に座りこみ、涙を流して笑っている。


 「……そうだな。アタシだって……」

 そこでフューヴァが少し黙り、また巨大な噴煙へ目をやった。

 「意外に、せいせい・・・・しているぜ」

 「ただいま」


 プランタンタンとフューヴァが、声のほうを見やった。何事もなかったかのように、ストラが立っていた。


 「ストラさん、いつの間に!?」


 「さあ! さあさあ! 長居は無用でやんす! 出発出発! 出発するでやんすよ!」


 プランタンタンは慌ただしく小屋に戻って、まだ笑いこけているペートリューを跨いで中に入る。すぐに少ない荷物をもって出てきて、少し離れた馬小屋へ向かった。もっとも、馬と云っても我々の知っている奇蹄目ウマ科のウマとは微妙に異なる生物だ。なにせ、見た目は似ているが足の指が三本あり、バッファローのように全身の毛が長い。便宜上、以後フランベルツ毛長馬と呼称する。


 なんにせよ、その毛長馬をごくわずかな時間で二頭、荷馬車へつなぎ、プランタンタンが手綱を握ってやってきた。


 「なにボーッとしてるんでやんすか! とっとと行きやあすよ! フューヴァさん、道案内を御願おねげえしやす。旦那、どうぞ御乗りくだせえ! ペートリューさん、置いて行きやあすよ!?」


 大きめの荷馬車には敷物が敷かれ、その上で寝泊まりできるようになっている。金貨を分散してそれぞれ持ち、ペートリューが両替した旅の資金はフューヴァが持っていた。


 あとは、簡単な旅道具が少々。この村でも調達したペートリューの酒樽が、最もかさばる荷物だった。酒の行商と間違われてもおかしくない。


 フューヴァも軽装の荷物をとって来て、サッと荷馬車へ飛び乗った。ペートリューがなんとか起き上がり、這うようにして荷台に乗ると横たわった。痙攣ひきつけを起こしたようにして、まだ笑っている。


 そして、最後にストラがひらり・・・、と浮かぶように荷台へ上り、そのままプランタンタンの後ろに座った。


 「ハイッ」

 まだ村人がざわついている中を、プランタンタンが馬車を出発させる。

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