第13章「ていと」 5-3 そっち
「はあああ~~~~~~~~い、あしたもがんばりましょおおおおーーーーーー~~~~~~えいえいおーーーーー~~~~~~~~~~~~」
常人であれば二日酔いどころか二十日酔いといった状況だが、翌日は素面どころか、いったん醒めて朝から迎え酒で軽くひっかけたような状態で現れるので、キレットとネルベェーンもそれに慣れてしまっていた。
ルートヴァンら3人が帰ってしまってから……。
「おう、ペートリュー、今日も御機嫌だなあ!」
現れたのは、古本屋のオッサンであった。
「待ってましたあああ~~~~~~~今夜も楽しく飲みましょおおおお~~~~~~~~」
ペートリューが手をふり、オッサンが同席した。
「そうだ、酒は楽しくやるものだ。飲み比べなど、ゲゲゲの下であるぞ」
「比べたって、オッサンさんには負けませええーーーーーー~~~~ん」
「云うじゃあないか! おーい、いつものだ!」
女将にそう云いつけ、このところ、すっかり店の「名物」になった、2人の呑んだくれ勝負が始まった。
その、2日後の朝である。
資料編纂室のドアを開けようとしたルートヴァンが、苦笑顔で、
「またオッサンが寝ているようだ」
とささやき、そのまま入室した。そして、
「おい、オッサン……」
と、云おうととして、固まった。
オッサンが、地下書庫に通じる出入口のある用具入れを開けて頭を突っこみ、なにやら探っていたからである。
キレットとネルベェーン、ペートリューも、アッ……! という顔で、凍りついた。
「落ち着け……僕に任せろ」
ルートヴァンが小声でそう云い、軽く咳払いをして、
「これはこれは、古本屋の……朝から、編纂室の掃除ですかな?」
オッサンがチラリとふり返り、
「ああ? ……ああ、いや……」
そう云って、用具入れから頭を出し、扉をしめた。
少し、白い物の混じる黒髪についたホコリをはらい、オッサンが飄々とした顔で、
「あんたたち、無何有を探って、どうするつもりかね?」
ヒぅッ! と引きつけたような声でペートリューが息を飲み、ガクガクと震えだした。キレットとネルベェーンが、思わずペートリューを凝視する。
「い! いえッ! わ、わわわわたしはあああああ~~~~~~~~ななななな何もおおおお~~~~~~~~しゃべってないです~~~~~~~~~~(たぶん~~~~~~~~)」
とはいうものの、その反応で、もう充分であった。
「フン……オッサンが、ペーちゃんから何かしら聴きだそうとしていたことを見抜けなかった、僕の責任さ」
ルートヴァンがそう云い、不敵な微笑で前に出る。空恐ろしい笑みだった。
「さて……我々が何を調査していようと、オッサンには関係ないはずだが」
「老婆心だ。無何有に関わると、碌なことにはならないぞ」
「まるで、いまでも無何有があるような云い方ですな」
「無何有は滅んだ!! いまさら復活させようとしても無駄だ!! 製法は、完全に失われている!!」
「? 何の話だ? 無何有とは、かつて存在した魔導士の大規模な広域犯罪組織のはずでは?」
「あ、そっち?」
「え?」
「え?」
ルートヴァンとオッサンが、見合ったまま一瞬、互いに黙りこんだ。
「あっあっあああ~~~~っと、いやいやいや……こりゃまたとんだ勘違いだ~~~こりゃああ~~あ!」
いきなりオッサンがそう云いだし、頭をかいて明後日のほうを向く。
「いやいやいやッ! いやーーーそのーーーいまのは~~~ナシ! 忘れてくれたまえ! まだ少し酔ってるなあああーーーー~~~~」
そこでまたルートヴァンとオッサンの目が合い、
「……こりゃまた失礼!! ……いやあああ~~~まいったまいった、ハハハのハ……」
わざとらしくフラフラして、オッサンがサッサと資料室を出てしまった。
みな、半ば呆然とそれを見送りつつ、
「……油断ならないのか、間が抜けているのか、よく分からん御仁だな……」
「殿下……製法……とは?」
聞き逃さなかったキレットが、すかさず尋ねた。
「フフ……察するに、無何有ではかつて、なにか作っていたということだな。そして、その事実をオッサンは知っている……と。あの反応では、とてもまともなものではなさそうだが」
「オッサン殿は、どうしてそれを?」




