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第13章「ていと」 5-2 ミレド

 「殿下……これは……!?」

 そこには、


 「例のあの都市より逃れし無何有ミレドの残党、バーレ国に潜んでいるとのうわさがあり」


 と、あった。

 「殿下、この無何有ミレド……とは?」


 「かつて存在した、裏の魔導士結社だよ。各国の裏仕事を専門にやるような……ね。分かりやすく云えば、悪の広域魔術師軍団さ。一時期は、帝国を裏から支配していたとすら云われている。が、2~300年ほど前に駆逐されたというのは習ったが……まさか、マーラルにいて、バーレに逃げていた……とはね。で、ということは……だ」


 ルートヴァンが、皆の顔を見渡しながら、


 「残党というからには、組織だろう。もしかしたら、結社の本部か何かが、市国マーラルにあったのではないか? どうも、におう。市国マーラル滅亡というのは、つまるところ、無何有ミレド掃討作戦の結果なのではないか?」


 「なるほど! ……つながりますね!」


 キレットとネルベェーンが顔を明るくさせたが、ペートリューは意味が分からなかったので、ただひきつって笑うだけだった。


 「そして……だ。いいか、無何有ミレドといえば、様々な魔薬の総元締めよ。開発、製造、流通、販売の全てを仕切っていたというぞ」


 キレットとネルベェーンが、再び表情を引き締め、

 「で、殿下……では、『例のあるもの』とは……」


 「うむ。無何有ミレドの流していた、何かしらの魔薬だろう。もしかすると、既に滅んだ、非常に強力な魔薬と同じものかもしれん」


 「手がかりがつかめましたな!」

 そこで、ルートヴァンが手を打った。

 「さすがペーちゃんだ! よく、この記述を見つけて、写しをとっていたね!」

 「ペートリューさん、素晴らしいです!」


 ペートリューはますます訳が分からず、緊張と紅潮でひっくり返りそうになり、とりあえずスキットルを一気飲みで空にした。すかさず、新しいスキットルをカバンより出す。


 「できれば、何の書物か、誰かの日記なのか、思い出してくれるとさらに助かるのだが……」


 ペートリューはスキットルを傾け、心もとなく、

 「いや、書類の束だったような……気が……」

 「公文書でしょうか?」

 「確かに、公文書でも『例のあの都市』と記録しているしな……よし」


 さっそく、ルートヴァンがペッテルの魔力通話。そこらに立てかけてあった杖をとって軽く掲げ、


 「ペッテルよ、聴こえるか?」

 「ハイ、殿下、いかがされましたか?」

 すぐに返事が来た。


 「明日からの探索につかう、新しい単語が見つかった。事前準備で、見繕っておいてくれ。とくに、公文書や公文書の写しだ」


 「わかりました、何という単語でしょう?」

 「無何有ミレドだ」

 「ミ……ミレド?」

 「知らんか?」

 「知りません。何ですか、それは……?」


 ルートヴァンはそこで、ペートリューが写していたメモや、マーラル市国の滅亡と無何有ミレドの関係性、そして当時無何有ミレドが蔓延させていたと思わしき強力な魔薬のことを説明した。


 「なるほど、わかりました。その線で行きましょう。よさそうな文献を、見繕っておきます」


 「頼む」

 その日は、その辺で閉館時間となり、一同は協会図書館を出た。



 そのままみな上機嫌で、既に行きつけとなっている食堂「ブルーク亭」へ向かった。ブルークとは、店を開業した4代前の店主の名であるという。


 もちろん、会話の中で地下書庫の話はしない。まして、ペッテルやマーラル市国、そして「無何有ミレド」のことも厳禁である。


 と、なると、大して会話もなく、黙々と食べて軽く飲み、サッと帰ることになる。

 ペートリューを除いて。


 だが、ペートリューもどちらかというと1人で延々と飲んだくれているのがほとんどなので、ルートヴァンもあまり心配はしていなかったし、じっさい、そんな蟒蛇うわばみにつきあう者も皆無だった。


 その日も、

 「じゃあ、ペーちゃん、先に帰るけど……」


 ルートヴァンが、テーブルにズラリとエールビールの杯を並べるペートリューに向かって云った。

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