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第13章「ていと」 4-13 イジゲン魔王の手のもの

 とはいえ、専制君主制でもなく、あまりにトルマスが妙なことをすると、当たり前ながら反旗をひるがえされることとなる。


 スタールは、社長秘書のようなものだった。

 8人の調整と、本格的な戦争カチコミの段取りを急ぎとらなくてはならない。

 (とは、云うもの、の……)


 スタールは、あの日以来店に来ていない、フューヴァとホーランコルを思い浮かべていた。


 (こんなこと・・・・・になるのなら、もっと迷惑料をふっかけておくんだったぜ)

 素直にそう思い、おもわず、苦笑した。


 フューヴァとホーランコルが借りたという家の倉庫に、見たこともない亜人種の大女がいるというのは、報告に上がっていた。


 それと、この近辺じゃ珍しい小さな金髪のエルフと、魔族・・……。

 にわかにザンダルを騒がせている「辻闘フラウト荒らし」の特徴と、一致する。


 (いったい、何が目的で、何者なのか……まさか、本当に『ヨダレ』を狙ってのことか……いっそ、こっちから接触してみるか……)


 などと考えつつ、種々の手配を終え、何日かのち、いったん店に戻った。

 かなり気温が下がり、凍てついた日だった。

 人がいないので、よけい、そう思えた。

 (こんなザンダルは、初めて見るぜ……)


 路地を歩き、スタールはうすら寒ささえ覚えた。半月やそこらで、ザンダルをこんな姿・・・・にしてしまうとは。


 (マジで、何者なんだ……?)

 「よお」

 ギョッとして、スタールが身構える。

 この寒さの中、店の前でうずくまって待っていたのは、フューヴァだった。

 「……姐さん!」

 「ちょっと、話があるんだ、スタールさん」

 スタールがにやり・・・とわらい、


 「こっちもですぜ、フューヴァの姐さん。どうぞ、中へ。すぐに店を暖めます」

 「ありがとよ。……うっひょお、さみい……帝都って、こんなに冷えるんだな」

 「盆地ですからね。……ホーランコルさんは?」

 「いま、来るよ」

 と、いうことは、離れたところで見張っていたものか……。


 ランタンを点け、薄暗い店内でスタールが手早く石炭ストーブに火を入れるや、ゴウゴウと音を立てて燃え始め、小さな店は急速に暖まった。


 「御免」

 そこに、ホーランコルも入ってきた。

 「いらっしゃい。どうぞ、こちらに座ってください」

 「どうも」


 フューヴァの隣に座りしな、ホーランコルがフューヴァと眼を合わせ、小さく首を横に振った。その様子を盗み見たスタール、


 (なるほど……尾行を警戒していたのか……)

 そう、納得した。

 「まずは」


 スタールがそう云って、小さな金属製の杯に上等なリヤーノを入れてストレートで出した。寒い日の気つけ・・・は、これにかぎる。


 2人は一気にあおり、杯をカウンターに置いた。

 「まず、こっちから聴いていいですかい」

 勿体ぶらず、スタールが厳しい眼で2人を見据えた。

 「いいぜ」

 「あんたら、なんなんだ!? どっから来て、ザンダルをどうしようってんだ!?」


 「アタシらは、イジゲン魔王ストラ様の手のもんだ。魔王様の裁可を得て、参謀の魔族がザンダルを九つの牙だかから奪い取ろうとしている」


 「…………」


 フューヴァがあまりにもアッサリとそう云ったものだから、スタール、固まった。


 「……おい、おい! 聴いてんのかよ!?」

 フューヴァにそう云われ、そこで息をつき、スタール、


 「……いやッッ! あの……ハア!? いや待て……ハアア!? いやいやいや……待て、待て待て待ってくれ! ……なに!? なんだって!?」


 「なんだよ、おめえが云えっつったんだろ」

 「魔王!? 魔王だと!? 魔王って云ったか!?」

 「ああ、云ったぜ」

 「どこの、なんていう魔王だって!?」

 「ヴィヒヴァルンのイジゲン魔王様だ」

 「ヴィヒヴァルン……!?!?」


 ヴィヒヴァルンにナントカの魔王カントカというのがいるというのは、知識としては知っていたが、一般人には縁の無いことなので、スタール、詳細まではよく知らなかった。

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