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第13章「ていと」 4-11 見せしめ

 が、戦闘希少種のトライレン・トロールで、さらに戦闘部族のピオラでは、最低でも+30、一撃で致命傷を与えるには+50は必要だ。そのために、魔術師の攻撃力付与魔法であるのだが、寄せ集めかつ使い捨てのカチコミ隊では、その辺の連携を期待するのは難しい。


 「ヌウン!」


 自然に出た裂帛の気合の唸りと共に、大柄な戦士がピオラの馬みたいな白い太腿めがけて剣を振り下ろした。


 が、硬さと弾力をそなえたものを切ったように弾き返され、ゲッ、と思ったときには、ピオラのフックが脇腹を直撃。肋骨を粉砕され、それが肺にことごとく突き刺さり、噴水のように血を噴いて転がった。


 同様に、ピオラの腰背部や肩口めがけて切りこんだ2人の攻撃が、全く通用しなかった。


 (マズイ……!!)


 上級のゲドル退治に失敗し、死にかけて冒険者を引退した経験のある1人は、即座に「勝てない」と判断。脱兎のごとくその場より脱出した。


 もう1人は愚かにもそのままピオラに攻撃を続けたが、木の棒で怒るヒグマを叩いているに等しく、ピオラの眼にも止まらぬ左拳の一打が顔面を粉砕、続く右拳が防寒着と鞣革と薄板金の軽鎧ごと胸部を陥没せしめて、冷たい地面に転がって即死した。


 「火事だ!」

 「だれか!」

 住民が騒ぎはじめ、ピオラも無言でその場を去った。

 30人はいたであろう襲撃隊も、残りは戦意を喪失し、逃げ去った。

 


 そのころ、ホーランコル組が根城にしている貸家を、40人ほどの同様の冒険者くずれ、用心棒稼業、組織「黒い巣箱」の構成員による本隊が取り囲んだ。


 「トロール野郎は、いねえみたいです」


 何人かが、正直にホッとした息をついた。またそうなると、別動隊がどこかで接触しているはずで、同情する。


 「バカヤロウ、仲間がいるだろう、気を抜くんじゃねえ」

 「ヘイッ!」

 ドラスにそう云われ、気を引き締めた。

 斥候が帰ってきて、

 「……中に、仲間と思わしき男と女が1人ずつ・・・・います!」

 そう、報告した。

 「たった2人か」

 「そのようで……」

 「どんなやつだ」


 「これは雰囲気のある腕の立ちそうな戦士と、その情婦イロとも思えねえ……みすぼらしい、痩せた若い女で」


 「盗賊か情報屋だろう……手ごたえのねえ話だが、先生がた、見せしめ・・・・でもあるんで、ちょいとハデに、手加減なしでおねげえします」


 「フン……いくら腕が立つと云っても、多勢に無勢……カネのわりに、楽な仕事で気が引けるが……分かった」


 冒険者くずれども、下卑た余裕の笑いを浮かべつつ、貸家に近づいた。

 屋根の上から、オネランノタルが見下ろしている。

 ストラは、いつも通りどこかへ消えており、いない。

 もっとも、オネランノタルでおつり・・・がくる。


 「さて……見せしめ・・・・に、ちょっとハデに死んでもらうとするかな!」

 云うが、かすかに月明かりのあった冬の空を真っ黒に覆うほどの魔力を展開。

 その魔力の雲より、最上級の魔法の矢マジック・ミサイルに匹敵する威力の雹が降った。


 「ゲフッ!」

 「ギャアッ!」

 「……ゴォッ!!」

 音もなく撃ち据えられ、襲撃者たちがバタバタと倒れた。

 「下がれ! 攻撃だ!」

 だれかがそう叫んだそばから、腹と胸を貫かれてひっくり返った。

 「な、なんだ、なんだ!?」


 雹の効果範囲外から見ていた「黒い巣箱」の連中、驚愕を通り越して唖然として固まった。


 「ま、魔法だ……かなり強力ダッ!!」

 脳天を撃たれて、血のりと脳みそをぶちまけながらその魔術師も転がった。


 あわてて防御魔術を展開できたものもいたが、準魔王級魔族であるオネランノタルの魔力行使を防ぐほどのバリアを張れるものはいなかった。


 音を立てて防御壁が砕け、直撃を受けた魔術師が転がる。


 「イヒィーーーーーヒッヒヒヒヒヒヒ!! アヒャーーッッヒャヒャヒャヒャヒャ!! よっわ! よっわ! よわよわよわ!! 弱すぎだね!!」


 思わず屋根の上でオネランノタルがそう叫んだが、誰も気づかなかった。そんな余裕はない。


 30人近くもの、カネで人を容赦なく殺すならず者たちが、家の周囲で死屍累々となった。

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