第13章「ていと」 4-10 急襲
「飽きたでやんす。1トンプにもなりゃしねえし」
ピオラはしかし、ストラみたいに明後日の方角を向きながら、ずっと何かの気配を探っている。
「でもよお、殺気は増える一方だあ」
そう云ってニヤニヤし、
「番人じゃねえけど、そろそろだあ。はじける寸前だあ」
「楽しそうでやんすね」
「まあなあ」
「今日はもう、帰りやしょう」
そのプランタンタンに、どこからともなく連続で魔法の矢と、暗殺用のボウガンの矢が飛んできた。
「!?」
エルフの超感覚でその気配に気づいたプランタンタンであったが、避ける身体能力は無い。
ピオラが覆いかぶさるようにしてプランタンタンをかばい、魔力のマントを展開して魔法も物理的な矢も防ぎ、弾き飛ばした。
「どっかに隠れてろお!」
と、ピオラが云った時には、もうプランタンタンは這うようにして脱出し、闇に隠れていた。
闇に潜むエルフを発見するには、独自の探索魔法や、よほどの熟練の狩人の技術が必要だろう。
プランタンタンの逃げ足の速さにピオラがほくそ笑むのと、第2射が飛んでくるのがほぼ同時だった。
しゃがんだ姿勢から、ピオラが一足飛びで数メートルも飛び上がり、身をひねって体操の床競技めいて闇の中に着地するや、
「……ゲブォ!!」
「ギャッ……!!」
眼前にいた、暗殺兵を次々に殴り殺した。
兵士たちに、暗視能力はない。暗視しているのは、冒険者くずれの魔術師たちだ。魔術師の指示で、辻塀の影よりボウガンを撃ちこんだに過ぎない。
その真上に、ピオラが降ってきた。
と、思ったら、石も砕くような衝撃で殴りつけられ、車に跳ね飛ばされたようにぶっ飛んで地面に転がり、あるいは塀に激突して転がった。
その数は、3人だ。
もう、ピオラは動いている。
暗視能力があるので、一方的だ。
魔力の流れをとらえ、まず魔術師をつぶす。
「クソ、打て、打て!」
「こっちに来るぞ!」
魔法の矢が乱れ飛ぶが、中級魔術の威力は通常の弓矢と同じほどで、魔力マントで防がずとも、ピオラの装甲皮膚を貫くのは不可能だった。ただし、それなりに痛い。
また、魔法なので避けても追跡される。ので、ピオラは最初から避けぬ。
「いって、いってえ!」
バシバシとあたる矢をものともせずに路地を進んで、瞬く間に2人の魔術師に接近し、
「……うわ、うわうわうわ!」
「逃げろ……!」
ここで勇者級の上級冒険者パーティならば、すかさず戦士類の直掩が入るのだが、ここではむしろ戦士隊は魔術師どもを囮にした。
魔術師、恐怖と強硬で、1人がこんな街中で|火の玉ファイア・ボール)を、1人が稲妻をほぼ同時に放った。中級冒険者とはいえ、家の1、2軒は木端微塵になる威力があるし、ピオラと云えど直撃を食らえば熱傷は免れない。
食らえば、だが……。
ピオラが魔力マントを大きく展開、ひるがえし、完全に闇に隠れた。そのまま防御壁として利用しても、オネランノタルのこの魔力マントは中級の攻撃魔法など完全にはじくが、ピオラは再び体操選手めいて上空高く舞い上がり、闇に魔術を放って硬直中の2人の魔術師の真上に落ちた。
まさに、木の上から獲物を襲う肉食獣だ。
虚空に飛んだ攻撃魔法がどこかに激突し、静寂を揺るがす爆発音と閃光をぶちまけたと同時に、1人が膝蹴りの直撃を受けて肩から胸にかけて潰れ、大量の血を吐いて即死。
1人が着地したピオラの大ぶりの掌打を横面に食らい、頸椎骨折のまま辻塀に叩きつけられ、頭蓋が破裂して即死した。
躍動する漆喰色の肌や筋肉が爆発炎上の光に浮かび上がり、ピオラの吐く息が蒸気となってその反射を映した。
その硬直するピオラめがけ、3人の戦士が攻撃力+20の魔法剣を振り上げ、路地の物陰から声もなく吶喊した。暗殺剣だ。
+20もあれば、ノーマル・トロールであれば余裕でダメージを与えられる。




