第13章「ていと」 4-9 トロール狩り
52歳になる「黒い巣箱」の組長のグルダーは、奥の机で頭を抱えていた。
(人間じゃあねえッ……人間にできるしわざじゃあッ……! 魔術師ったって、あんな拷問魔法は、聞いたこともねえッ……!!)
ここに至り、ピオラ達の背後にいる黒幕が、思っていたより強力で大きなものだと推察された。とうぜん、狙いも辻闘などではなく、もっと大きくて別なものだ。
汗だくのグルダーが、息を飲む。
(まさ……まさか……まさ……ね、ねらいは、アレ……か……!?)
とたん、グルダーが、瘧のようにガタガタと震えだした。
(ア、ア、ア、アレだとしたら、とてもじゃねえが、ウチなんかの手におえるしろものじゃあねえッ……! 端から、牙が前に出ねえと……!!)
そうは云っても、パヌィフィチェンヌを再起不能にされた落とし前をつけさせてくれと上に頼んだのは、グルダーだ。
いまさら、後には引けぬ。
(どうする……ッ!?)
まさか、こんなことをしでかす鬼畜非道な魔術師がいるとは、考えもしなかった。
もっとも、魔族が控えているとは流石に思いつかなかったし、まして魔王の一味とは、夢にも思わない。
「組長! どうすりゃいいんで!?」
「トロール狩りの段取りは、もうつけちまいましたよ!?」
「礼金をはずんだので、大出費でさあ」
「前金で払っちまってます!」
「分かってるんだよ、コノヤロウ!!」
いつも通りにすごんだつもりが、グルダーの声は震えていた。
その様子に、組織の幹部たちも事の重大さを認識する。
「……何人、集まった」
「冒険者崩れが……23人」
「ウデは」
「このところ評判の白トロール狩りと伝えて、怖気もつかねえ連中なんで……それなりには」
「よし……」
グルダーが、唾をのむ。
だが、敵はピオラだけではない。
少なくとも、極悪な魔術師と思わしきものがいる。
「……あと20人、集まらねえか」
「組長!」
「有り金ぜんぶはたきやがれ! 命より安いだろうが!!」
「まさか、オレたちも出るんですか!?」
「バカヤロウ、どっちにしろ負けたら報復されるにきまってるだろ! 生きたまま、薄切りや挽き肉にされてえのか!!」
「そんときゃあ、牙が出るでしょう!」
「出たっておんなじだ! こっちも狙われるんだよ!!」
「勝ちやあいいんですよ、組長!」
皆が、その壮年の男を見た。副組長のドラスだ。今まで、自ら手を汚して玄関前の人間の輪切りを片づけていた。そういうことをするので、組織の中では信任が厚い。
「分かってんだよ、そんなこたあ! 勝てる連中を集めやがれッつってんだ!」
「そうは云っても、金で釣るしかねえ。いくら、出せるんで?」
「ぜんぶ、もってけ。今月の上納もだ!」
みなが驚きの声を上げたが、ドラスだけ、ニヤッと笑って、
「さすが、組長だぜ」
と、うそぶいた。
そのようなわけで、3日後、高額の報酬で釣られた者、ウワサの辻闘荒らしの大女トロールを痛い目に合わせるというサディスティックな仕事に興味を持った者、組織の人間で75人が集まった。
もはや、様子見のカチコミの規模ではない。
この3日、ピオラとプランタンは出歩いても誰もいないので、オネランノタルの指示で喧伝に精を出した。
「ゲヒッシッシシッシッシシシッシィイ~~~~~~~~~~~~~~~~!! もうフラウトってやつじゃあ、ウチのピオラの旦那にかなうやつは、いねえってことえやんすうううううう~~~~~~~~~!! もうなんでもいいんで、旦那に挑戦する御仁はいねえでやんすかあああ~~~~~~~~~~????? 御安くしときまっせええええええ~~~~~~!!」
あからさまな、挑発であった。
プランタンタンはピオラを後ろに、ザンダルの裏通りのいたるところをそんな調子で手で揉みながら歩きまくった。
だが、もう全く反応が無い。




