第2章「はきだめ」 8-5 ギュムンデだった廃墟の底
膨大な土砂の下より三次元サーチでエーンベルークンをとらえると、こちらも周囲の土砂を瞬時に熔解させるほどの高熱線を叩きつけた。一瞬で小規模ながらマグマ溜まりが発生、同時に火山性ガスが爆発、地下水と反応! ギュムンデのど真ん中で、大規模な水蒸気爆発が起こった。
さらに膨大な熱エネルギーも解放され、熱爆発も起きる。
それらが合わさった大音響と供に、火山の噴火めいた巨大な噴煙が吹き上がって……やがて瓦礫と土砂、岩石、それに人間及び人間だった肉塊が、上空からバラバラと降った。
「……ぬぅう!」
魔力壁でストラの熱線攻撃を防御し、エーンベルークンが輻射熱による陽炎で周囲のゆがむ地下より上空の噴煙を見上げる。
ストラが、爆発と同時に地上へ上がったのを感知したのだ。
エーンベルークンも飛翔魔法で飛び上がろうとしたが、もうストラが真下へ超超極少量のテトラパウケナティス構造体をプラズマで包んで飛ばしていた。コンマ秒で構造体がエネルギーを開放。燃料気化爆弾めいて、広範囲が一気に爆轟効果に包まれた。
これは、構造体から間接的にエネルギーを得てプラズマや熱線等に「変換」し「発射」する攻撃より高速で純粋な破壊力が大きく、かつ広範囲を攻撃できる方法だ。従って敵兵器を個別攻撃するより、広域都市破壊等に有効なのである。
高衝撃高熱高圧力の超絶的な爆風が地下よりふきあがり、今さっき起きた噴火の数倍の規模の爆発的噴火が起きた。これが本当の火山だったら、山体が吹き飛ぶレベルのプリニー式噴火と云えよう。
地上の建物が巻き上げられ、なぎ倒される。そして、ギュムンデの地下構造体が一気に崩壊。まるで地獄の底が抜けたように……カルデラが陥没するように大穴が空いて、地上物が一気に地面へ吸いこまれた。
これには、エーンベルークンも驚愕。
自身の身を護るのが精一杯で、全魔力を防御に使用した。猛烈な高温、爆風と爆圧の中を、魔力のバリアを展開しつつ浮遊して移動する。
(こ、これは……どういう類の魔法なのだ……いや……魔法ですらない……純粋に、膨大な魔力の開放……か……!?)
と、なれば、エーンベルークンの常識と発想では、
(ヤツも……高濃度のシンバルベリルを……!?)
それであれば話が異なる。いったん、引くほかはない。
そう思った瞬間……。
エーンベルークンを、某かの「力場」が包んだ。
「う……!!」
そして、凄まじい勢いで、魔力がその力場に吸い出された。
「う、おお……!! なん……だ……!?」
さらに、心臓が爆発するような異常な鼓動に襲われる。加えて、大動脈がバリバリと裂けたかのような、とんでもない痛みが胸に走った。
「…………!!!!」
銀色の眼を見開き、エーンベルークンは胸を押さえた。強制的に魔力が奪われる反動だった。魔力量が急激に減少し、術式を保持していられなくなる。そのため、胸元に埋めこまれているシンバルベリルが自動的に失われた分の魔力を放出するが、それがそのまま、水が漏れるように周囲に拡散した。
その膨大かつ強力な魔力の流れに、肉体が耐えられぬ。
「うごぉぁ……!!」
息も詰まり、エーンベルークンは浮遊していられなくなって穴の底に落下した。とんでもない量の土砂が、その上に落ちてくる。
(い、い、いったい、何が……!?)
あっという間に生き埋めとなったが、それが幸いした。
ストラによる、魔力を吸収するために展開した特殊なエネルギー収集効果場が、膨大な土砂によって物理的に遮断されたのだ。
(いまだ……!!)
エーンベルークン、命からがら転送魔法を発動し、ギュムンデ……いや、ギュムンデだった廃墟の底から脱出した。
(シンバルベリル反応消失……! 対象の生体反応も……)
ストラが、自身の攻撃で波動の乱れる噴煙内に浮遊し、エーンベルークンが「消えた」ことを確認する。
(魔力子吸収遮断……微かながら、位相空間の展開を確認……しかし空間転移の可能性は10%以下……極小規模位相空間展開を利用して大量の土砂から脱出し、超々高速移動した……?)




