第13章「ていと」 4-7 生ごみ
翌日……。
最初にそれを見つけたのは、オネランノタルだった。
というより、魔力の網にそやつらがひっかかったので、泳がせつつ、そやつらが夕刻前に玄関ドアに放り投げて転がったそれを拾った。
荒い繊維の袋だ。
魔力探知で、中身は、分かっていた。
耳と鼻をそがれ、眼をくりぬかれ、舌を切られ、歯もほとんど抜かれ、顎が外され、顔面をザグザグに切り刻まれ、頭蓋を割られて脳みそをぐちゃぐちゃにされたギーロの頭部であった。
拷問なのか、死体損壊なのか、その両方なのか、オネランノタルにはどうでもよかった。
(なんだ、こんな生ゴミで私らがどうにか思うとでも思っているのか……? アホな奴らだ、イッーーッヒッヒヒッヒヒッヒ……!)
そう思ってにやけつつ、ゴミを高濃度高圧魔力で瞬時に焼却処分し、屋内へ戻った。何食わぬ顔で、
「おい、プランタンタン」
質素なパンと加工肉の夕食を食べているプランタンタンが、
「なんでやんす」
「今日は、たぶん闘いにはならないだろう。けど、ウロついて、ピオラをせいぜい見せびらかせておいてよ」
「はあ……よく分かんねえけど、分かったでやんす」
「あと、いつもの人間は来ないと思うよ」
「へえ? あの……(名前を忘れたでやんす)……調子のいい、ビビりのアンちゃんでやんすか?」
「そうだよ」
「どうしてでやんす?」
「逃げたんじゃないか?」
「はあ」
「それから、私は、ヤボ用で出かけるから」
「どこに行くんでやんす?」
「ちょっとした、生ゴミの御返しをしに……ね」
「はあ」
「生ごみがどうしたって?」
玄関が開き、フューヴァとホーランコルが帰ってきた。
「おかえりなせえやし」
「お前ら、今日も行くのかよ?」
「もちろんだよ」
プランタンタンの代わりに、オネランオタルが答えた。
「だけど、そろそろだ。早ければ、明日にでも第一陣が来るんじゃないかな?」
その言葉に、ホーランコルが表情を変えた。
「では……組織が」
「そうだよ。最初は、様子見だろう。それを撃退して……次が本命だ。様子見と本命のあいだに、フューヴァとホーランコルは、『九つの牙』を裏切って、こっちの仲間になりそうな組織に接触してよ。魔王の支配下に入ったこの街の、実務を任せられそうなね」
「なるほどな……」
「フューヴァさん、どうします?」
ホーランコルがそう尋ね、
「いろいろ店を回ってみたけど、やっぱりあそこがいちばん雰囲気がいい。勘だけど、ホーランコルの云う通り、あそこの店主は、きっと上部組織の幹部だな」
「裏切りますかね?」
「なあに、裏切らせて見せるさ」
ホーランコルが口元を緩め、
「さすがですね」
「じゃあ、そういうことで!」
楽しそうにオネランノタルがそう云って、パンと手を打った。
その夜、オネランノタルの指示通りに、プランタンタンとピオラはいつも通り辻を回ったが、辻闘には入らなかった。もっとも、どの辻も閑散として、その日は休みなのではないかというほどだ。もともと辻闘は毎日行われていたわけではなかったが、それはいわゆるメインの辻闘であって、練習試合や前座試合みたいなものは、毎晩のように行われている。
しかも、
「いよいよ、上が動くらしい」
「巻きこまれるんじゃあねえ」
という噂が風のように飛び、
「しばらく近づくな」
となったものだから、客も集まるわけがなかった。
「クッソがあッ!! いったい、なんなんだ、あのデカブツはよ!!」




