表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
817/1280

第13章「ていと」 4-6 誘拐

 「辻闘フラウトを中止しろ!」

 「こんなのは、辻闘フラウトじゃねえ!」

 「2人ともやりすぎだ!!」


 客の一部からそんな声がし、セコンドのおやじやこの場所を仕切る組織の人間も、顔をしかめた。


 (もうだめだ、つぶされる!)


 セコンドのおやじがそう判断し、中止させるため審判に向かって手を上げようとしたとき、ピオラがついに煉瓦と漆喰の壁を突き破って、パヌィフィチェンヌごと屋内に転がりこんだ。


 独特のリズムで鐘が打ち鳴らされ、場外でいったん中止される。

 「パヌィフィ! 無事か! おい!」


 組織のものが駆け寄り、パヌィフィチェンヌを助け起こそうとしたが、真っ暗な建物の中から瓦礫を踏み越えてのっそり・・・・とピオラが現れたので、いっせいに下がった。


 暗がりでよくわからなかったが、その右手は何かを引きずっている。


 ピオラが松明の光が届くところまで出て、それがパヌィフィチェンヌであることが分かった。


 「パ、パヌィフィ!」

 「……てめえ、りやあがったな!」


 組織のものどもがいっせいに殺気だったが、ピオラにひと睨みされてまたいっせいに黙った。


 「ぎりぎり、死んじゃいねえよお。手当してやりなあ」


 ピオラが、何事もなかったかのように云い放ち、パヌィフィチェンヌを地面へ転がした。


 審判が駆け寄り、かろうじて息があることを確認して、

 「ピオラの勝ち!!」

 と宣言、終了の鐘が打ち鳴らされた。

 「やったぜ! さすがピオラさんだ!」

 と、はしゃいだのは、ギーロだけだった。

 客どもも含め、他は、いわゆる「ドン引き」だ。

 賭けがどうのではない。


 建物の壁をぶち抜くほどの攻撃もることながら、あれだけ渾身の力で首を絞められていたピオラ、その真っ白い首に跡すらついていない。


 まさか、芝居ではなかっただろうが、終わってみたらほぼノーダメなのは確実だ。


 (まじかよ……)

 (こんなやつに、誰も勝てるわけねえだろ)

 (反則だぜ)

 (出場停止にしろ)

 (賭けにならねえって)

 (クソ面白くねえ……)


 みな、顔に書いてあった。辻闘フラウトを愛好するものほど、強くそう思った。


 その視線は、パヌィフィチェンヌを擁し、この辻を仕切っていた組織「黒い巣箱」の人間に向けられる。


 また、パヌィフィチェンヌはかろうじて息を吹き返したが脳挫傷を患い、思うように体が動かなくなって、辻闘フラウト戦士としては引退となった。帝都周辺のエルフの集落に帰って、農夫をやるという。なお、その脳挫傷がもとで、若くして5年後に亡くなっている。


 ここまでされて、本格的に対処しなくては、仕切っている側として示しがつかぬ。


 とはいえ、「九つの牙」が出るのは、まだ少し早かった。

 目的が分からなかったからだ。

 脅せる範囲で脅し、制裁を課して、引き下がればよし。


 それで引き下がらなかったら、何らかの利権を侵しに来ていると判断され、本格的に排除される。


 抗争や戦争は、だいたい・・・・そういう流れだった。


 既に、ギーロを含め、ピオラやプランタンタンの居場所は探られていいた。もっとも、オネランノタルが探っていたネズミ・・・を泳がせていたのだが。


 話も、対処も、末端組織の手から離れ、中堅組織に移っていた。

 「九つの牙」直下に、5つの組織がある。

 分担と順番で、暗黒街の実務を取り仕切っている。

 そこが、対処する。

 まっさきに狙われたのが、とうぜんながらギーロだ。


 僅かながらの取り分を受け取り、朝方まで飲んで女を買って、昼前に狭い安アパートにもどって寝こけていたところを見事な手際で誘拐された。


 別に、ギーロから何か聴き出そうというのではない。

 どうせ、何も知らないからだ。


 ギーロ以外はよそ者で、ギーロだけがザンダルの人間というのは分かっていた。


 ギーロは、ただ使われているだけだ。

 見逃してもいいくらいだが……。


 ギーロを拷問、殺害し、ピオラ達がなんとも思わず、手も引かないのであれば、単なる辻闘フラウト荒らしではなく、黒幕がいて、大胆にも「九つの牙」の何らかの利権を狙っていることになる。そういう判断だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ