第13章「ていと」 4-2 別行動
「ホーランコル……何とか、云ってやってくれ……」
そう云われてもホーランコル、
「大公殿下がおられない以上、直に魔王様の御裁可を……」
「いいよ」
またいつの間にやらそこにいたストラが、突っ立ったまま、ぶっきらぼうに云い放った。云うまでもないが、ストラの「いいよ」はこれまで通り「どうでもいいよ」という意味である。フューヴァとプランタンタンは経験でうすうすそれを分かっていたが、
「さっすが、ストラの旦那でやんす!」
「えらそうに、ナニ云ってやがるんだよ!」
とはいえ、フューヴァもストラの行動や言葉に異議を唱えるつもりは毛頭ない。全て、着いてゆく。何があろうと。何が起ころうと。ストラがどう云おうと。着いて行ける限界まで。そう、決めていた。ギュムンデが滅亡した、あの噴煙のような天に立ち上る黒い煙を見上げた時から。
「じゃあよ、どうせやるんなら、とことんやろうぜ。ホーランコル、それでいいな?」
部隊長を差し置いてどんどん仕切るフューヴァに苦笑しつつ、ホーランコル、
「魔王様がそうせよと仰せであれば、否やはございません。しかし、役割は? オネランノタル殿、私とフューヴァさんは、別行動のほうが良いのでは?」
「どうしてだい? いっしょに辻闘を見ていればいいじゃないか。そのうち、刺客をわんさかと送ってくるよ」
「送ってきたところで、私の仕事はありますまい。オネランノタル殿とピオラ殿ですもの」
「そうでもないだろ」
「いえいえ……」
ホーランコルが謙遜の笑みを受かべつつ、
「フューヴァさん、せっかくなので、あの店で、裏組織の動向を探りましょう。ピオラさん方とは、無関係のふりをして」
フューヴァが笑いながら、
「すぐバレると思うけどな」
「それなら、それで。でも、あのスタールって店主は、タダの下っ端組織の親分では無いと思いますよ」
「……と、いうと?」
「ナントヤラという末端組織の親分というには、雰囲気や態度が……ね」
「ふうん……なるほどな。アンタの眼を信じるぜ」
ホーランコルがうなずき、
「決まった。オネランノタル殿、ふた手に別れて、大公殿下の仕事が終わるまでに、この街を魔王様に献上奉りましょう!」
「イィーーーッヒッヒヒヒ……ホーランコル! そう来なくっちゃ! さすが、魔王の騎士団長だ!」
「1人しかいませんがね!」
「君ほどの人物……1人で充分さ……! 聖魔騎士だ……!」
オネランノタルが、不気味なほどの笑顔でそう云い、ホーランコルは無視もできず、ビビりながらも胸に手を当て、その称号を受け入れた。
「ではストラ氏、我らの仕事を、御照覧あれ……って、ストラ氏はどこだい?」
気がつけば、またストラが姿を消している。フューヴァが肩をすくめ、
「さいきんずっとおかしいんだけど……ストラさん、ここんとこちょっとおかしくねえ?」
「ストラの旦那は、いっとう最初っから、ずっとおかしいでやんす」
「違いねえや!」
2人が大声で笑い、ホーランコルとオネランノタルが思わず眼を合わせて肩をすくめ、苦笑しあった。
翌日、深夜……。
オネランノタルやピオラ、プランタンタンはギーロと合流し、今日も辻闘に出かけた。
と、云ってもピオラが強すぎ……たった15日ほどで、挑戦者が尻込みするようになってきた。どうせ勝てないのなら、ピオラがいなくなってからゆっくり戦おうというわけだ。いつ、いなくなるのかは知らないが……。
特に、優秀な選手を秘蔵している組織は、
「あんなバケモノに、みすみすつぶされてたまるか」
というわけで、よけいに出し惜しみする。
「とっとと30連勝させて、引退させろや」
と、いう声も出たが、
「じゃあ、おまえんトコロから挑戦者を出せ」
と、なる。
「冗談じゃねえ、おまえが出せ」
「うるせえ、ウチはもうタマがねえ」
「再挑戦でもいい」
「本人が嫌がってるんだ! 勝てやしねえ」
「ウチもだ……!」
「ウチも」
「オレんところも!」
かと云って、当て馬のような相手をぶつけたところで、客は集まらぬ。




