第13章「ていと」 3-15 『例のあの都市』と『例のあの物』
気を取り直し、ルートヴァン、
「えー……と、どれどれ……ほう……あったぞ。本当だ。これはおそらく、マーラル市国に関する記述だ」
ルートヴァンの言葉に、4人も短く声を上げる。
「どのような内容でしょうか?」
「えーと、ちょっと、省略するが……えー、貴殿は、20年ほど前に突如として消失した、『例のあの都市』のことを覚えておいででしょうか……こんなところだな」
「例のあの都市」
思わず、キレットが確認をこめて復唱する。
「マーラルという名前は、当時は禁忌だった……と」
「そのようだな。そうこうしているうちに、忘れ去られたのだ」
「覚えておいででしょうか、という記述からすると、その貴族は実際に知っていたのですね」
ペッテルがそう尋ね、ルートヴァンがニヤリと口元をゆるめた。
「そうなるな。知識として知っているだけなら、御存じでしょうか、とでも書くだろう。覚えておいででしょうか、というからには、この書簡を書いたほうも、送られたほうも、若かりしころにでもマーラルに行ったことがあるのかもしれん」
「な、なるほど! いきなり、貴重な証言にあたりましたな!」
「そうかもな」
ルートヴァンがキレットにそう答え、さらに目を通した。
「……ほう……まだ、面白そうな記述があるぞ……『例のあの都市』が消失してのち、『例のあの物』は、どのようにして御入手でしょうや? もし、他に入手方法があれば、何卒御教授願きたく……とある」
「今度は、例のあの物……ですか」
ペッテルがつぶやき、ルートヴァン、
「だな」
「何のことでしょう?」
「分からん」
「ですが殿下、検索するのに重要な単語を知ることができましたね。『例のあの都市』と『例のあの物』で調べてみましょう」
ペッテルが、さっそく検索盤を操作。そして、
「うわっ」
驚きに声を上げた。
「……なんだ、これは」
ルートヴァンも瞠目する。
光点が、明らかに多い。
しかも、見る間に増えて行く。
「これは……!」
キレットとネルベェーンも、眉をひそめた。
「殿下、これは、どういう……!?」
「フフ……これだけ、『例のあの物』が蔓延していたのだろう……しかも、帝国じゅうにな」
既に、光点は100を越えていた。まだ増える。
「これを、ぜんぶ調べるんですか~?」
ペートリューが、もううんざりしたような声を発した。
「流石にその時間は無い。が、当たりをつけて、片端から見てゆくほかはないだろうな」
「うぇえ……」
ペートリューが肩を落とし、スキットルを傾けた。
「何回かに分けて行おう。お前たちも、読むことのできる資料を別個に当たってくれ。ペッテル、みなの位置管理を頼んだぞ」
「畏まりまして御座りまする」
ペッテルが答え、キレットとネルベェーンも表情を引き締める。
4
15日が経った。
ピオラは辻闘「荒らし」として、すっかり有名人となっていた。なにせ、30連勝すれば辻闘王の称号を得られる4つの大きな辻を荒らしまくって、既に12連勝している。1年で12連勝ならまだ現実味もあるが、たった15日で12連勝は、異常な数字だ。まさに、所属する組(組織)を超えて見境なしに暴れまわらなくては、到底実現不可能な数字だったし、命知らずという意味と、それだけ強いという意味で、そんなことを本当にする(あるいは、できる)やつがいるなんて……といったところだ。
ちなみに、そのメインの4つの辻以外の、そのメイン辻闘へ出るための予備戦のような小さな辻闘には、現れなかった。そんなところで勝っても意味がないし、相手が弱すぎてピオラとは誰も戦わないとギーロが教えたからだ。
フラウト料も跳ね上がり、既にしめて12,726トンプを稼いでいた。3分がギーロの取り分なので、380トンプだ。ギーロにしてみれば、たった15日で年収にも匹敵する380トンプを頂けるとは、笑いが止まらぬ。




