表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
809/1280

第13章「ていと」 3-13 帝都地下書庫

 とはいえ、どうしようもない。回廊の内側から襲うわけにもゆかないし……辛抱強く、いなくなるのを待つしかない。


 それから30分ほどもジッとしていると、回廊の向こうの気配が消えた。

 「ようやく、行ったようだな……」

 「おそらく」


 ペッテルが、公女の着る貴族のワンピースドレスに似つかわしくない大きな肩下げカバンより、何やら掌に収まるサイズの金属の箱を取り出した。ルートヴァンが興味を示し、


 「なんだ、それは」


 「これまで、一度も出会い頭に何者かと鉢合わせたことは無いのですが……やはり、出会って騒がれても面倒なので、念のため」


 ペッテルの相貌では、魔物と間違われ、それこそ皇帝騎士や特任教授に退治されかねぬ。


 「つまり、それは出口の向こう側に誰もいないことを探る装置か」

 「そのような、大したものでは……」


 云いつつ、箱より折り畳み式のアンテナのようなものを引き出し、それを出口へそっと近づけた。


 「誰かいれば、ここが光ります。魔力を感知します。地下書庫にいるもので、強い魔力を有していないものはおりません」


 「なるほどな、フフ……流石だ」

 ペッテルが示した小さなレンズ状の部分は、何の反応もなかった。

 「行ってしまったようだな」

 「……ですね」

 「出てみよう」

 ルートヴァンがそう云って先に動いた。ペッテルが驚いて、

 「あ、殿下、危険です、まず私めが……」


 「ばか者、万が一、特任教授が魔力を隠して潜んでいた場合、お前より僕のほうが、まだ云い訳ができるだろう」


 その言葉にペッテルが息を飲み、感服して礼をした。

 「恐れ入り奉ります……大公殿下」


 「僕なんぞに恐れ入っている暇があったら、聖下のために尽くせ。地下書庫では、お前だけが頼りなのだぞ」


 ふり返って、不敵な笑みでそう云うルートヴァンに向かい、ペッテルがしっかりを顔を上げ、胸に手を当てて敬礼し、


 「ハ、畏まりまして御座りまする!」

 力強く、そう云った。

 その様子を見つめ、キレットとネルベェーンが眼を細めた。


 ルートヴァンがこっそり次元回廊の出口より顔を出し、するり・・・と外に出る。薄暗い体育館のような大きな空間に、延々かつ整然と書架が並んでおり、初めて目の当たりにする光景に、さしものルートヴァンも圧倒された。


 だが、周辺の気配や魔力を探るのを忘れない。

 「……いいぞ、本当に誰もいない」

 声をかけると、ペッテルを先頭に4人が現れた。

 「うおお……!」


 書庫の空間に、キレットとネルベェーンはおろか、ペートリューまでも度肝を抜かれる。


 「で……どうすればよいのだ?」

 「ハイ」

 ペッテルが、独自に作成した地下書庫の検索盤を取り出す。


 「私めがタケマ=ミヅカ様より賜った情報を元に収集物を調べ上げ、記録して御座います。ただ、記録しているだけです。整理はしておりません。ですので、意外に収集場所がバラバラです。以前ご説明した通り、マーラル市国に関する資料は数少なく……また、単純な内容のものばかりでした」


 「もしかしたら、マーラルの名をあえて忌避しているのかもしれん。市国、滅亡とか、都市国家、消失とか、幻の都市とかで検索できないのか?」


 「なるほど! や、やってみます!」

 さっそく、ペッテルが検索盤を操作する。

 すると、20ほども光点が現れ、ペッテルも驚いた。

 「それでも、こんなものか」

 ルートヴァンは、逆の意味で驚いた。

 「おそらく、日記とか公文書と思われます。近いところから行ってみましょう」

 ペッテルがそう云い、皆を案内した。

 無限に続く書架の合間を歩きながら、


 (確かに……これでは、公女様とはぐれた場合、ここで干からびてもおかしくない……)


 キレットがそう思い、最初は興奮していたが、むしろ恐怖を感じてきた。


 (それに、ここにはいったいどれほどの書物や資料が収集されているのだ……!?)


 魔術師協会の図書館でも内心、仰天していたが、キレットは天井も見えないほどの書架の迷宮を見渡して、めまい・・・がしてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ