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第13章「ていと」 3-12 常識を疑え

 「殿下、特任教授というのは、いったい……」

 待機ついでに、キレットがそう尋ねた。

 「そうだな、在野のお前たちでは、知らないか」

 「はい」


 「とはいえ、僕も御爺様やシラール先生から多少、聴いているだけで、詳細は知らないんだ。いま何人いて、どんなやつとかまではね。しかし、何をやっているのかは知っている。正確には、協会が設立されてから存在しているが、同じようなことをしていた魔術師は、協会の成立前……帝国成立の最初期よりいるんだ。御爺様やシラール先生も、若い時に特任教授をやったことがあるようだよ」


 「え、そうなのですか?」

 そう云って少なからず驚いたのは、ペッテルだった。

 「ヴァルベゲル陛下や、シラール学院長が?」

 「そう、聴いている。本人たちからね」

 「それはすごい」


 ペッテルの驚きは、こんなに危険な裏仕事・・・を、当時のヴァルべゲル王子や学院のエリート若教授だったシラールがやっていたという事実に対してだった。


 ルートヴァンが軽く笑いながら、


 「ウチ・・は、けっこう実戦派でね。御爺様とシラール先生は、聖下が現れなければ、そろそろ僕を推薦しようとしていたはずだよ」


 「なるほど……」

 ペッテルが感心し、4本の触覚が動いた。ルートヴァンが話を続け、


 「勇者タケマ=ミヅカ様が3重合魔魂テルミルを行い、世界を固定する役目を担ってこの地に鎮座し……それを護るためにバーレン=リューズ神聖帝国は生まれたのだが、その魔力的な『重み』により、次元にひずみ・・・が生じているという。そのひずみ・・・から、時おり『怪物』が現れるのだそうだ……」


 「怪物……ですか」

 魔獣使いのキレットとネルベェーンが興味を示し、眼を見開いた。

 「そうだ」

 「どのような」


 「様々な姿、形のだ。異なる世界・・・・・から現れるので、法則性が無い。らしい。時には、知性があり、武器を持っている異世界の人類もいるらしい。もちろん、未知の武器だ」


 「なんと……!!」

 「ほかには、本当に異形で、名状しがたい連中とのことだ」

 「魔物のような?」

 「だろうな。見たことは無いが……」

 「で、では、特任教授というのは、それらを……」


 「退治して回っているのだ。宮城……あるいは、帝都から出ないようにな。皇帝騎士と、協力してな」


 「皇帝騎士と!?」

 キレットが驚く。


 「フフ……キレットよ、皇帝騎士というのは、ただ突っ立っているだけの御飾りだと思っていたろう」


 「あ、は……はい、恥ずかしながら、今まで」


 「表向きはそうだよ。皇帝と宮城を専門に護る騎士だからな。誰も、皇帝や宮城など襲うものはいない。今のところは」


 「はい……」


 「だが……長命で戦闘力が高く、帝都と皇帝を冠した種族名を持つリューズィリィ皇帝エルフたちが、ただの飾りなわけが無い」


 「云われてみれば……そうですが」

 「常識を疑えよ」

 「肝に命じまする!」


 キレットが真剣な表情で答え、ネルベェーンも感嘆してうなずいた。ペートリューは……大あくびでスキットルを傾ける。そろそろ、無くなってきた。いちおう、予備を持ってきているが……。(さすがに、協会へ向かうのに水筒を何本もカバンに詰めてくるのは遠慮していた。)


 「ところで、まだいるのか?」

 ルートヴァンが出口の向こうを伺いながら、ペッテルに尋ねた。

 「そのようです……」

 「まさか、この出入口を探しているのではないだろうな」

 「まさか……!」

 ペッテルが触角をピンと伸ばした。


 「え、では、協会にいたあの方も……!?」

 オッサンのことである。

 「あれは……ただの酔っ払いだろう。考えすぎだ」

 「ですよね。こちらを伺う様子もありませんでした」

 「問題は、特任教授だ……」

 「はい」

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