第13章「ていと」 3-8 旅と冒険の仲間
玄関はそのまま短い回廊に続いており、その奥に分厚く巨大な門のような大扉があった。たとえ強引に警備を突破しても、部外者は、この回廊すら通り抜けることができない。魔術的機構により玄関の扉には至らず、気がついたらそのまま裏口に出ている。玄関扉に到達してる時点で、3人はルートヴァンの随行として認められているのだ。
扉の前でルートヴァンが軽く右手を振ると、もう、4人は建物の中にいた。扉が、いちいち開くことは無い。
「すごい機構ですね」
キレットを含め、3人は感心しきりだった。
「ま、横着な蓺当だよ。さて……」
ルートヴァンが、ペッテルより指示された場所に向かって歩き出したので、3人も続く。朝イチということもあってか、館内は閑散としており、すれ違う者も稀だった。が、ルートヴァンに会釈や礼をしつつ、後ろに続く3人には必ず侮蔑しきった眼を向け、中にはあからさまに舌打ちし、1人に至っては、
「神聖な館内の空気が汚れる! 誘われても断らんか、下賤どもめが!! 身の程をわきまえよ!」
すれ違いざま、あからさまにそう3人に向かって文句を垂れた。
「申し訳も御座りませぬ」
3人の先頭を行くキレットがシレッとそう云い放って礼をし、ネルベェーンは無視、ペートリューはキョドりすぎてその言葉も耳に入っていなかった。
「フン! ヴィヒヴァルンの王子様も、酔狂はほどほどに願いますぞ!」
ルートヴァンが、ふり返りもせず、無言で杖を軽く上げた。
キレットはルートヴァンが云われもない侮辱を受けたように感じ、無性に腹が立って、逆に、度胸が据わってきた。
後ろの雰囲気が変わったことを読み取り、ルートヴァンが内心、満足する。
と……回廊を進み、大階段を上がろうとしたとき、
「おい、ルーテルじゃないか」
見るからに豪奢な魔術師ローブをまとった初老の男性が、そう、ルートヴァンに声をかけた。
「オーレウ先生!」
ルートヴァンが礼をし、オーレウを迎えた。
「珍しいな」
「先生こそ、御久しぶりです。このようなところで御会いになれるとは!」
「なに……いま、少しばかり協会の仕事をしていてな」
オーレウは、完璧にルートヴァンの後ろの3人を無視した。最初から見えていないといったふうだった。
「ついに、特任教授に就任か?」
「いいえ」
オーレウがそこでルートヴァンに顔を近づけ、背の高いルートヴァンが少し屈んだ。
「おまえ、いま冒険者をしているともっぱらのうわさだが……」
「はい。いまも、その途中です」
「よく、陛下と学院長が御許しになられたな……」
「御許しも何も、その御ふた方の命ですから」
「なに……!?」
オーレウが、眼を細めた。その針のような眼で、やっと、キレットたちを一瞥した。
「……ヴィヒヴァルンでは、レミンハウエルを倒したというヤツを新たに魔王として奉じ、メシャルナー様に代わる『要石』にしようとしているなどという話を聞いたが……」
「その通りです」
ルートヴァンがあっさりと云い放ち、オーレウが額を押さえた。
「待て。待て待て。まさか、ウルゲリアが滅んだというのは……」
「聖魔王ゴルダーイを、異次元魔王様が御倒しに」
「ガフ=シュ=インに降り注いだ星の雨も……」
「星隕の魔王リノ=メリカ=ジントを、異次元魔王様が……」
「待て! ルーテルよ、本気で云っているのか!」
「もちろん、本気ですとも」
オーレウ、今度はしっかりとルートヴァンの後ろの3人を見据え、
「まさか、この3人の中に……!?」
「いえ、この者らは僕と共に聖下に仕え、大業を支える……いわば、旅と冒険の仲間です」
「旅と冒険の仲間だと!?」
オーレウの甲高い声が回廊に響き、思わずオーレウが口を押えた。どこの世界でも、図書館内では静粛にしなくてはならない。
「フ……先生、何か、おかしいことでも?」
「い、いや……」
オーレウがルートヴァンをしげしげと見つめ、また3人を凝視した。そしてまたルートヴァンに眼を移し、
「……変わったな、ルーテルよ」
「そうですか?」




