第13章「ていと」 3-7 協会付属図書館
それは、世界を支える要石であるタケマ=ミヅカの「重し」によりひずんでいる次元の隙間より現世に現れる「怪物ども」である。
「怪物ども」は異次元の存在であり、全く正体不明だった。甲殻人類や軟体人類、ガス生命体、恐竜人類、猫科類似人類のような異次元人の場合や、単なる未知のモンスターの場合もある。ストラもその意味では、特大の「怪物」であろう。協会では皇帝騎士のために超絶的に強力な魔法の武器を開発し、また自身も独特の攻撃魔法を編み出している。その攻撃魔法の中には「怪物ども」を元の次元に追い返す術もある。
また「怪物ども」の現れる頻度はまったく決まっておらず、何十年も出なかった時もあれば、720日間連続で現れた時もある。現れる「怪物ども」の強さや種類は、まったく法則性や関係性が無い。
その、世界と帝国と皇帝と、なにより「神」を護っているという事実と自負が、協会員の魔術師たちの傲岸不遜で尊大な態度や一般魔術師への偏見、差別を生んでいることも事実である。
そういった情報は、だいたい帝国の魔術師であれば魔術の師匠によって聞かされるのが常であり、ほとんどの市井、在野の魔術師が、
「あんな所には近づくな」
と、教えられる。
ペートリューもそうだし、短期間ではあるが南方のガナン地方より出てきてノーイマルで帝国流の基礎魔術を習ったキレットとネルベェーンもそうだった。まして、キレットとネルベェーンは南方の秘境から出てきていたので、なおさらだ。冒険者でやってゆくのなら、
「絶対に協会とかかわるな」
ときつく云われた。
「関わってもろくなことにならんし、我々など虫けらみたいに扱われる」
と。それは、真実なのだろう。
いかにルートヴァンに連れられているとはいえ、
「そんなところに、ノコノコと行って、大丈夫なのだろうか……?」
3人は緊張と恐怖で、建物に近づくにつれ、柄にもなく足が震えてきた。
「どうした、なにも襲われるわけじゃあないよ」
ルートヴァンはそう云うが、ルートヴァンの目の届かぬところでいじめ殺されそうな気がした。
「ペーちゃんまで……大丈夫だよ」
そう云われるが、ペートリューはもうガマンできず、こっそり鞄に忍ばせていた真鍮のスキットルをガブ飲みした。昨日買っておいた、高級なリヤーノがそのまま入っている。一気飲みしそうな勢いだったが、さすがに何口かで止めた。
宮城であるリューゼン城の瑠璃色の主塔は、高さが100メートルはあるのだが、魔術師協会の複雑な形状の塔も60メートルはある。この2つの塔が、リューゼンの象徴だ。
魔術師協会の塔は、3本の塔がねじれながら合体したような形状で、塔の内部には各種の実験室があるとされる。塔が高いのは、気象や天体を観測するためだ。実務は、塔の周囲に並んで建てられているいくつかの棟で行われている。
協会付属図書館も、その棟の中の1つだ。
地上3階、地下1階の建物は、図書室や書斎がせいぜいのこの世界にしてはかなり大規模な図書収蔵施設であり、数万冊の蔵書を誇る。ほとんど全て魔術関連のもので、そこが一般の図書館とは異なる。専門図書館だ。
当然ながら、入館には魔術師協会員であることが最低限だったが、会員に随行すれば、最高でちょうど3人まで非会員も入館できる。
「こっちだ、3人とも」
勝手知ったるナントヤラで、ルートヴァンがスタスタと先を行く。ハラを決め、キレットとネルベェーンが深呼吸してそれに続き、全くハラの決まらぬペートリューが逃げ出そうにもやはり好奇心が勝り、ガクガクしながら殿を歩いた。
それをチラッとふり返ってルートヴァン、
(フフ……なんだかんだと、ペーちゃんも魔術師の端くれだな……)
そうほくそ笑み、いざ、協会付属図書館に到着した。
(だいたい、ここはまだ入口で、本命は宮城の地下書庫だからな……ペッテルには、昨夜のうちに連絡をしておいたが……さて)
ルートヴァンが、正面玄関で高レベルの魔法戦士でもある衛兵に向かって空中ホログラムめいた会員証を提示し、何やら指示した。衛兵が胸に手を当てて敬礼し、
「どうぞ、お通り下さい!!」
と声を張り上げる。
「行くぞ」
3人にそう云い、ルートヴァンが石階段を登って少々高い位置にある大きな正面玄関に向かう。3人は衛兵たちの鋭い視線を感じ、躊躇していたが、
「早くしろ」
ルートヴァンに云われ、意を決して続いた。




