第13章「ていと」 3-4 帝都名物肉団子
さて……。
なんだかんだと夕刻も近くなり、外で落ち合った4人は夕食がてら、今後の打ち合わせをすることにした。既に泥酔してフラフラのペートリューに、キレットとネルベェーンが苦笑する。
「ペートリューさん、部屋で寝ていたほうが……」
「まあまあ、ペーちゃんも久しぶりの街だ。店で飲んでみたいだろうさ」
「さっすがルーテルさんですぅ~~~~~いきましょお~~~~~~~~」
とたん、うっすらと凍りついた地面に滑って倒れ伏した。
「しっかり!」
キレットが手を貸し、立ち上がろうとしたが手足に力が入らない。まさに要介護老人のようだ。
考えてみれば、旅のあいだはこれほど飲んでいなかったし、チィコーザ王宮では飲んだくれてほとんど部屋から出てこなかったので、キレットとネルベェーンは泥酔するペートリューを初めて見た。
「で……殿下、この御方は、大丈夫なのですか……?」
さしものネルベェーンも、思わずそう尋ねた。
「フ……大丈夫、とは?」
「この状態で協会図書館や、地下書庫に?」
「もちろんだ。ペーちゃんにとって、この状態が通常だからな」
「はあ……」
「なに、聖下によると、ペーちゃんは、実は常人の数倍も酔わない体質らしい。それがこれほど酔っているというのは、それだけ飲んでいるということなのだが……酔いが醒める速度も、常人の数倍の早さだという。だから、ほっとけばすぐに醒めるというわけだ。追加で飲ませなければ……だが」
「はあ……」
そのことの何がどう「大丈夫」なのかは、ネルベェーンには理解できなかったが、とにかく、
(殿下がそうおっしゃるのなら、そうなのだろう……)
と、思うことにした。
ペートリューはようやく立ち上がり、キレットにつかまりながら何とか歩いて、適当にルートヴァンが選んだ地元の食堂に入った。
「帝都の名物はな、いろいろな味付けの肉団子だ。2人とも、知っているだろう」
「はい、殿下」
笑顔で、キレットがそう答える。
「しかし、リューゼンに入ったことが無いというのであれば、ノーイマル流しか食べたことはあるまい。ここの肉団子が本場だ。特徴は、塩だれだ。赤ワインの肉汁だれではなくな」
「聞いたことがあります。確かに、食べたことはありません」
「皇帝の命で、他の街で作ることを禁じているからな」
ルートヴァンがそう云って笑い、適当に4人の席を取った。
「なかなか、雰囲気の良い店じゃあないか」
「そうですね」
客層は、路地裏にしては高すぎず、低すぎずといったところだった。30人ほどが入る店で、2/3ほども席が埋まっている。
注文を取りに来た女将らしき中年女性にむかって、ルートヴァン自らが、
「カスタ肉団子と、スープと、パンを4人前……いや、パンは3人前。ペーちゃんは何を飲むんだい?」
「あ、ビールでお願いします」
つい先ほどとは打って変わって、もう素面になりかけていたので、キレットとネルベェーンが驚いた。
「ペートリューさん、大丈夫なんですか? 水をもらいましょうか?」
キレットがそう云い、
「あー……じゃ、水も、少し」
以前、ストラに水もよく飲むように云われたのを、たまに思い出すペートリューであった。
「僕も、ビールをもらう。お前たちは、どうすのだ?」
ルートヴァンがキレットとネルベェーンにそう尋ね、2人も久しぶりに帝都の酒を頂くことにした。
我々で云う中ジョッキほどの真鍮のゴブレットに、微炭酸でクセがあって香りと味の濃い、とうぜん冷えていない、エールに近い上面発酵ビールがなみなみと注がれてやってきた。栄養価が高く、「飲むパン」などと呼ばれる部類のものだ。
「では、我らの使命と成功と、聖下の救世の成功を願って……乾杯」
ルートヴァンが音頭を取り、4人がゴブレットを打ち合って喉を鳴らした。
「独特な味だ、懐かしい」
ヴィヒヴァルンでは我々で云う低温下面発酵のラガー(に、近いもの)が主流で、帝都名物のビールはルートヴァンも数年ぶりだった。まして、王宮で飲まれるものは魔法を利用し、キンキンに冷えている。帝都でもそうしている者はしてるのだろうが……とうぜん、こんな食堂では行われていない。魔術師協会でも、そんなくだらないことに魔法を使うバカはいない。
もっとも、ヴァルンテーゼ魔法魔術学校でも、そんな魔法は誰も教えていない。どちらかというと、王宮の酒好きがかつて開発した裏魔法みたいなものだった。




