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第13章「ていと」 3-1 リューゼンの街並み

 バーレン=リューズ神聖帝国皇帝の住まう、天高くそびえる巨大な瑠璃塔を象徴としたリューゼン城を中心に、城下町として約7万7千のひとびとが住まうリューゼンの街がある。住人の多くが城の使用人や皇帝府役人とその家族であり、経済の主体はむしろノーイマルなどの周辺都市であるのは、既に記している。


 また、リューゼンには帝国魔術師協会の本部がある。宮城以外では、最も規模の大きな建物がそれで、威厳に満ちて都内に鎮座していた。


 そこも、ルートヴァン以外の在野魔術師である3人には、全く縁がなかった。

 「殿下、都内に短期で部屋を借りるのですか?」

 キレットがそう尋ね、


 「そうなるな。おっと、僕のことは気にするな。これまでも、ともに宿に泊まってきた仲じゃないか。金はあるし、書生や協会付属魔術学校の生徒用の安下宿も実はたくさんあるんだ。端の、下町のほうだがな。中には、貴族や王族子弟の使う高級下宿もあるがね。それは、城の周辺だな」


 「では、魔術師協会の近くで、よさそうな物件を見繕いましょう」

 「まかせる」

 「ハッ」

 キレットがそう返事をした矢先、

 「あ、あの……ルーテルさん、御願いがありまして~~……」


 3人の後ろをおずおず・・・・とついて歩いていたペートリューが、珍しくルートヴァンに声をかけた。


 ルートヴァンはペートリューが何を云わんとしているのかすぐに悟り、

 「分かってるよ、ペーちゃん。酒屋が近いことも条件に入れておこう」

 「すみません、フヒヒッ……」


 オネランノタルもストラもいないのであれば、次元倉庫から自在に酒を出していたこれまでとは状況が異なる。酒は、自分で手配しなくてはならぬ。


 キレットとネルベェーンは、ペートリューの魔術師としての実力はまったく分からなかったが、ストラやルートヴァンにこれほど信頼されているという点だけを観ても、敬意をもって接するに値した。


 「頼んだぞ、キレットよ」

 「御任せくだされ!」

 キレットが、笑顔でそう答えた。

 帝都リューゼンは、やはりこれまでのどこの街とも雰囲気が異なっていた。


 建物や街並みにどこか気品があるのもることながら、整然として、いかにも官庁街、学術都市、そして皇帝の御膝元であった。高級というわけではないが、とにかく小ぎれいで街全体が作り物のようだった。道を往く人びともどこかよそよそしく、活気があるようで無いが、無いようである。不思議な空気をしていた。


 したがっていかにも冒険者然として小汚い4人は、逆に浮いている。魔術師ローブを着ていなければ、ノーイマルへ行く冒険者が道を間違って迷いこんできたと思われただろう。


 「魔術師協会はあっちだ」


 ルートヴァンが遠目にそびえる瑠璃色のタイルで飾られたリューゼン城の塔を見もせずに、そう云って都にもう1つ屹立する高い塔の集合体めいた異様な建物に向かって歩を進めた。


 「あれが協会本部ですか?」

 キレットに問われ、ルートヴァン、鼻息も荒く、

 「そうだ。仰々しい、鼻持ちならない連中の巣窟だ」


 ルートヴァンがそう云うのだから、よっぽど・・・・なのだろう。キレット、ネルベェーン、ペートリューが思わず顔を見合わせる。


 (私たち程度の魔術師が行って、大丈夫なのか……)


 3人とも声に出さなかったが、それぞれ顔にそう書いてあった。まったくもって、相手にされないに違いない。無視だ。完全無視。空気のように無視。虫けらやゴミとすら思われない。


 その考えを読んだように、


 「僕と一緒なら大丈夫だよ。僕は正会員だし、御爺様とシラール先生は協会の理事だ」


 「しかし……」

 「ま、身なりくらいは多少整えたほうがいいかもな。御爺様に恥をかかせる」

 「ハ……では、やはり少し等級の高い部屋を探しましょう」


 「そうだな。ま、協会周辺なら、そもそも高めの部屋があるだろう。立地も良いだろうしな」


 「いかさま」


 と、云いつつ、あまり本部の眼と鼻の先では、やはり落ち着かない。というか……超エリート魔術師を含め、颯爽と道を往く人びとも都会然として、見るからに冷徹そうな雰囲気だったので、基本的にコミュ障のペートリューが緊張と恐怖でもうソワソワし、カバンから水筒を出して強烈な度数のレベヂ酒をガブ飲みし始める。


 それを見やって、街の人間の、

 「この寒さで、何を飲んでるんだ……?」

 「通りで飲み物を……?」

 「まさか、昼間から酒……?」

 「冒険者……?」

 「冒険者ふぜい・・・が、この街に何の用だ?」


 という、場違いに過ぎる哀れな異世界人でも見るような無慈悲な視線が、よけいにペートリューの精神を混乱せしめた。

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