第13章「ていと」 2-20 魔族がいるなんて聞いてない
「う、うわさじゃ、この街、この街の全てを牛耳ってるっていう、くも、雲の上の皆様方です……!」
「そういうのでいいんだよ!」
「へえ……?」
オネランノタルの笑顔に、やや、ギーロが拍子抜けしたような表情となった。
「そいつらに、てっとりばやく接触する方法は!? 考えろよ! 私らは人間じゃないから、人間の街のきまりなんか分からないからね!」
「てっとりばやくゥ……」
唸りながら、ギーロが無い知恵を絞った。命がけで。
「!」
そこで、ピンと来たのは、やはりギーロの才覚なのだろう。
「そっ、そりゃあ、やっぱり、辻闘で勝ちまくって、有名になることですよ!」
「なんだって?」
ギーロは汗だくのまましたり顔で、
「し、しかも、組織に入らねえで、単独でそこらじゅうの辻闘を荒しまくりゃあ、嫌でも向こうから近づいてきます! なにせ、なんだかんだと総元締めですからね、『九つの牙』は! そういう部外者の荒らし行為は、やっぱり組織にゃあ迷惑なんで!」
と、そこまで云って、
(その場合、おれまで眼を着けられるじゃねえか!)
という発想に到り、急に素になった。
が、もう遅い。
「そうなの? プランタンタン」
オネランノタルに尋ねられたプランタンタン、しかし、よく分からぬ。
「フューヴァさんなら、詳しいかと思いやすよ。でも……ゲッッシシシシッシシシ~~~~! いまとなっちゃあ、ギュムンデでストラの旦那が賭け試合に出た時は、掛け金やら出場料やらを頂くより、旦那がすげえ相手を難なく御倒しになるたびに、観客どもや相手側の連中の顔が白黒するんで……それを見ているほうが、胸が躍りやした~~~~!!」
「そうだろうね! ピオラでも、そうなるだろうよ! あんなエルフの小娘が連勝を飾っているようじゃね! そうだろう!? ピオラ!」
「ま、よっぽどじゃねえと、こんな街角の力比べであたしに勝てる奴あ、いねえだろおなあ」
「そうだそうだ、そうしよう! おい人間!」
「ハッ! ハイ、はひィ……」
冷たい石畳に座りこんだまま、ギーロがひきつった声を発する。
「お前が云い出したのだから、お前が全部仕切れよ! 断ったら殺す! 逃げたら殺す! 云うことを聞かなかったら殺す! 手際が悪かったら殺すからな!」
「ハイ、ハイ、ハイ、ハイ……!」
「私は優しいから、報奨金の5分をお前の取り分としてやるよ!」
「3分でやんす!」
「3分だ。分かったな。分からないと殺す」
「わわわわわかりました!!」
「立ちなよ」
「は、はい、は……」
ギーロは立とうとしたが、震えが止まらず、うまく立てなかった。
「とっとと立たないと殺す」
「ずびばぜん!!」
オネランノタルが分かりやすく一般人にも感じられるような魔力を殺気として噴き上げ、ギーロが直立不動となった。
「よし、今夜はまだ時間がある。さっそく、他の辻の力試しに行こうよ! ピオラ、プランタンタン!」
「あたしはかまわねえよお!」
「あっしも、御金様が頂けるんならどこでも行くでやんす! ゲヒョッヒッヒッヒッシシシッシッシシシシ……!」
プランタンタンが眼を細めて前歯を見せ、肩を揺らして笑うと同時に仄かな照明魔法が消えた。3人の眼だけが闇にうっすらと光って浮かび上がり、ギーロは己の浅はかさを後悔した。いや、目の付け所やさっそくプランタンタンを利用しようとした行動力は褒められてしかるべきであった。が、
(魔族がいるなんて、聞いてないィ……)
その、一点に尽きる。
3
ホーランコルやストラ達と別れたルートヴァン、ペートリュー、キレットにネルベェーンの「魔術師組」は、街道を帝都リューゼンへ向けて歩き、その日の午後遅くに無事リューゼンに到着した。
キレットとネルベェーンが、かつて帝都を本拠として活動していたと云っても、正確には帝都圏であり、リューゼン近郊の冒険者の良く集まるノーイマルの街を根城にしていた。リューゼンそのものには、全く縁がなかった。
従って、2人は初めてリューゼンを訪れた。もちろんペートリューもだし、ルートヴァンだけが数年ぶりの訪都であった。




