第13章「ていと」 2-19 ギーロ
そんな3人の前に、路地の曲がり角からいきなり何者かが現れ、
「プランタちゃん! すごい仲間がいるじゃないか!! なあ、オレと組んで、こっちの姐さんを辻闘王にしようぜ!!!!」
ほぼほぼ真っ暗だったが、3人とも夜目が効く。20はじめほどの若い男に、プランタンタンが、
「あれっ、あんた、さっきの……」
「ギーロだよ! プランタちゃん!」
「プランタンタンでやんす!」
「なんでもいいよ!」
相貌を崩してそう云ったギーロは暗がりにも圧倒的な気配を醸し出すピオラに向かって、
「姐さん! 御初に御眼にかかります! ギーロってもんです! こんなに強い御方は、辻闘でも滅多に出てきやせんぜ! これも何かの縁! ぜひ! ぜひとも! 御一緒に!」
ピオラは遠くの松明の光をうっすらと映す青い眼で、ギーロを無言で見下ろした。殺意とか、敵意とかではなく、猛獣が、
「なんだ、こいつは……?」
と弱小動物を不思議そうに見つめる、超絶的な強者に特有の眼だった。
その視線に気づいたギーロ、急激に背筋が凍りついたが、ここで引いては勝負にならぬ。肚を決め、息を吸うと、
「……御一緒に、辻闘で天下をとりましょう!!」
「イーーッヒッヒャヒャハハハハアアア!! 何だい、この人間は! プランタンタン、いつの間にこんなアホと知り合いになったんだい!?」
闇からそんな声と不気味な笑い声がし、全く予想していなかったギーロが流石に驚愕。飛び上がって驚いた。
「知り合いじゃねえでやんす」
「おい、人間! 私らを使って、儲けてやろうという発想は正しい! 話しかけてくる度胸も認めよう! だけど……私がからんでいても、まだそんなことが云えるかい!?」
「だ、だれ!? 誰です!?」
パッと間接照明ほどの魔法が灯り、プランタンタン、ピオラも含めてみな眼を細める。
闇に浮かび上がったのは、魔力フードを取ったオネランノタルだった。
「うわああおあああああああ!!!!!!」
ギーロ、魔族と分かる知識はあった。この街では、いなくはない。遠目に見たこともある。
だが、組織のかなり深いところにいるという認識だったし、けっしてギーロほどの立場や身分の小物が関わってはいけない相手だというのも理解していた。
「う、うわっ……ま、まっ……ま、魔族……の御方と……おおおお御知り合いだったんで……プ、プランタさん……」
とたんに腰が引け、先ほどの熱意もどこへやら、ギーロがさっそく冷や汗と脂汗をダラダラと流しながら後ろに下がる。
「おい、どこへ行こうってんだ、人間! もう遅いよ! 逃げたら殺す!」
「ヒィ……」
ズイ、とオネランノタルが前に出て、ギーロが冷たい石畳に尻もちをついた。オネランノタルがさらに近づくと、ちょうど顔の高さが合った。
「おい人間、私らを利用する代わりに、私らもお前を利用させてもらおうか」
子供のような顔立ちが、黄色地黒の縞模様に彩られている。ギョロギョロと別個に動く黒と翠の四ツ目が全てギーロを見つめ、真っ青で長い舌がべろりと口から出て、鎌首をもたげた蛇のようにギーロの顔へ迫った。
「あ、アヒ、ハイ、ハヒ、は……」
ギーロはひきつった笑みのまま涙があふれ出て、失禁寸前だった。
「こういう街だ。街を支配するでかい組織があるんだろ? それへどう接触すれがいいか、教えろよ!」
「え、えひ……は、あ……」
「耳からこの舌を突っこんで、直接頭の中を舐めて情報を取り出してもいいんだぞ? ああ? どうするんだい?」
ギーロがガタガタと震えだし、
「あ、あの、あの、あの、お、お、お、おれは、した……した……」
「舌を入れてほしいって!?」
「下っ端なんですってばあああ!!」
「見りゃわかるでやんす」
プランタンタンがオネランノタルの横に立ち、薄緑に光る半眼でギーロを見下ろした。
「プ、プランタさん、助け、助けて……」
「御金様をいただけるんなら」
「カネぇ……!?」
金なんか、あるわけがない。あったら、こんな賭けには出ない。
ギーロがオネランノタルに向き直り、
「した、した、下っ端すぎて、おおおお、おれなんか、九つの牙に相手にされませんよ!」
「九つの牙ってなんだい?」




