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第13章「ていと」 2-18 まあまあ面白かった

 「ガ…ッはァ……!!」

 息が止まり、ディヴィシュンヌの意識が二度、飛びかける。

 「そらそらそらあああ!!」


 そのままピオラがディヴィシュンヌへ馬乗りになって、ボゴボゴに殴りつけた。


 まさに白鬼だ。


 その戦闘に躍動する白い肌が、大松明に照らされてオレンジ色に輝いた。本気で殴っていれば、その拳もディヴィシュンヌの血で真っ赤に染まっていただろう。


 「もういい、やめろ!」

 「見てらんねえぜ!」

 「あの白いの、バケモノだ!!」

 「死んじまうよ!」

 「トロールなんざ、反則だ!!」

 観客の声が飛んだ。賭けを通り越し、純粋に心配している。

 (もうだめだぜ……!)


 ディヴィシュンヌのセコンドが戦闘中止を宣言しようとしたとき、ディヴィシュンヌが強靭なバネで下半身を起こし、ピオラの首を背後よりカニばさみでひっかけ、自重を利用して転がりながらピオラを倒した。


 「うおっ…!」

 そんな寝技を知らなかったピオラはまともに食らい、豪快に倒れた。


 その隙にディヴィシュンヌが上下を入れ替え、逆にピオラへ馬乗りとなって逆襲! ボゴボゴに殴りつける。


 一気に、客どもの歓声と応援のヴォルテージが上がった。


 ディヴィシュンヌ、四の五の云っておられず、女の弱点である乳房に向かっても、容赦なく拳を飛ばした。なにせ、ピオラの胸はデカイ。ピオラが顔を腕で防御し狙いがそれると、狙うまでもなく当たる。


 が、そこはピオラも分類上は「モンスター」だ。


 ピオラの巨大すぎる胸部バストは拳が跳ね返されるほど弾力があり、しかも何のダメージもないように思われて、ディヴィシュンヌは戦慄した。顔面も、どれほど殴っても鼻血もでない。むしろ、拳のほうが痛い。


 (チクショウ、視界が……!) 


 一方、先ほどボコられたディヴィシュンヌの顔面は、見る間に腫れあがっていた。視界が狭まり、ディヴィシュンヌがそれを嫌でも実感する。


 ついでに、ビキニアーマーめいた竜革の下着? が、異様に頑丈だった。どのような加工を施せば、これほど頑丈になるのかというほどだ。しかも、竜の鱗なのだろうか……ヤスリめいて細かなサメ肌の突起がある。ディヴィシュンヌの拳が引っ掛かり、擦れて指の皮が裂けた。どうしてこんなモノを身に着け、その白い柔肌を維持しているのか。


 (な……なんてやつ……!)


 ディヴィシュンヌの息が上がる。冷たい空気に、白い息が蒸気機関のように吐きつけられた。ピオラを殴りつける動きが、たちまち遅くなってきたのを見やって、観客どもも息を飲み、歓声が止まった。


 「ピオラ、勝負をつけてやりなよ」


 闇からオネランノタルの声がし、近くにいた何人かがその魔力合成音声と暗がりに紛れる異様な姿にギョッとしたが、ほとんどの者が気づかなかった。


 「ハア……ハア……」


 観念したように、ディヴィシュンヌが拳を振り上げたまま、止まってしまった。


 そんなディヴィシュンヌの胸ぐらを右手でつかみ、ピオラが起き上がってそのままディヴィシュンヌを無理やり立たせると、


 「オラァア!!!!」


 左の猛悪的なボディが炸裂! ディヴィシュンヌは何かを吐きつけ、そのままピオラが手を離すと、石畳に沈んだ。


 鐘が打ち鳴らされ、ピオラが満面の笑みで両手を上げた。

 


 「まあまあ面白かったよお」


 再び発生させた魔力マントの内側の強冷房を最大出力にし、戦闘で少し火照った体を冷やしつつ、ピオラがすっきりした笑顔で云い放った。


 プランタンタンはフラウト出場料として受け取った650トンプ銀貨幣の入った袋を覗いて、飽くことなく歩きながら数えてニヤニヤいていた。


 「しっかし、プランタンタンは貨幣が好きだねえ、チィコーザからあれだけもらったのに、そんな少額でも有り難いのかい?」


 3人で深夜の散歩を再開し、裏路地でオネランノタルが甲高い声を発した。オネランノタルは未だに真っ黒いローブ姿なので、全く見えない。


 「あったりめえでやんす! 御金様に、額が大きいとか少ねえとか、大したことじゃあねえんで!」


 「魔族からしても、大したことだと思うよ!!」

 オネランノタルが、さも楽しそうに云った。

 「あればあるだけ、いいもんなんでやんす!」

 ムキになって、プランタンタンも声が高くなる。

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