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第13章「ていと」 2-13 フラウト

 「見えねえでやんす」


 ピオラは観客の頭の上から見られるし、オネランオタルはとっくに浮遊している。プランタンタンだけが、騒ぎ立てる人間の壁の後ろから、ピョコピョコと跳びはねた。


 そのプランタンタンに誰かがぶつかり、プランタンタンが転がるように地面に倒れる。


 「あっ……わりぃ! ってガキか!? ガキにゃ危険だぜ、ここいらはよ。マチのもんじゃねえな?」


 分厚く綿の入った防寒着がクッションとなってむしろ痛くもなかったプランタンタンはしかし、わざと声を張り上げ、


 「いってえでやんす!! ケガでもしたら、賠償でやんす!」

 「わりぃって云ってるだろ!?」


 そこで、プランタンタンにぶつかった若者が、その闇の中で翠に光る目や、エルフの長耳を見やり、


 「……おい、なんだ、人間じゃないのかよ……じゃあ、ガキでもねえな」

 「よけなお世話でやんす! そっちこそ、ガキみてえでやんす!」

 プランタンタンは金になりそうもないとわかると、さっさと立ち上がった。

 「変な言葉遣いだな、おい。どこのだれだ?」


 「あっしは、ゲーデル牧場エルフの、プランタンタンっていうケチなもんでやんす」


 「な、何エルフだって?」

 「ゲーデル牧場エルフでやんす!」

 「なんだそりゃ! お前みたいなエルフは、初めて見るよ」


 「そりゃ、あっしらはゲーデル山にいるんだから、こんなところじゃ珍しいでやんしょうね」


 そこで、プランタンタン、以前ギュムンデでフューヴァに忠告されたことを、唐突に思い出した。エルフなんか珍しいので、誘拐されて売られないように気をつけろ……という。


 「あーーーー……っと、ととっととっとっとっと……急に、用事を思い出したでやんすうう~~~~~~……」


 プランタンタンはそんなことを云いつつ、素早く闇に隠れようとしたが、ワッと歓声が上がり、人々が波のように動いたので、観客の壁に押されて若者のほうに押し戻されてしまった。


 「おっと、気をつけなよ、危ないぜ」

 若者に支えられ、

 「も、もうしわけもねえことで……」

 「おれは、ギーロっていうんだ」


 プランタンタンは周囲を気にしつつオネランノタルやピオラを探したが、どこに潜んでいるものか、全く分からない。


 「おい、ゲーデル山ってどこなんだ?」


 「へえ、ヴィヒヴァルンの向こうの、フィーデ山の近くで……リーストーンっていう小せえ山国のあった・・・ところで」


 「ヴィヒヴァルンは知ってるけど、リーストーンって知らないなあ」


 「帝都の皆様方にしたら、もう超絶的に超絶ド田舎もド田舎で、知らねえのも無理はねえでやんす」


 「そんな田舎から来たのに、ずいぶん帝都語がうまいな」

 「え、ええまあ……」


 プランタンタンにもよくわかっていないが、ルートヴァンの魔法でしゃべっているというのは理解していた。が、説明する能力は無かった。


 「あちこち、流れ流れているうちに、帝都出身の仲間に教えてもれえやして」

 「え、まさか、冒険者なのか!?」

 「正確にゃあ、凄腕の魔法剣士様の従者でやんす」

 「従者連れで冒険なんて、すごいね、その人」

 「ええ……すげえ御仁でやんす」


 ギーロの表情かおが、一瞬、ニヤリとゆがんだのだが、ピオラやオネランノタルを探して気もそぞろ・・・のプランタンタンは、まったく気がつかなかった。


 「なあ、どうだい? ここにいる・・ってことは、『辻闘フラウト』に興味があるんだろう? おれと組んで……そのすごい人を、さ……試合に出して……」


 そのとき、またワアッ……!! と歓声が起き、プランタンタンが長い耳をふさいだ。


 「ディヴィシュンヌの勝ちだあああーーーー!!」


 その声と共に、人々がそれぞれ喜びや悔しさにまみれ、胴元と思しき男が勝ったものに手早く配当金を配る。


 と、人の波の合間から、松明に照らされる大柄な人物がプランタンタンの目に留まった。元より闇を見とおすので、少しまぶしい。


 それが、ピオラもかくや・・・という大柄な女丈夫であったものだから、てっきりピオラと思って、


 「ピオラの旦那、いつのまに!?」

 と、叫ぼうとして思いとどまった。

 ピオラに良く似た雰囲気をしているが、全く違う人物……種族であったからだ。

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