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第13章「ていと」 2-12 物好きな魔族の自覚

 「ギュムンデってえところと、大して変わらねえでやんす」

 プランタンタンの、素直な感想だった。


 「人間の街なんか、どこも大して変わらないよ。そのギュムンデも、歓楽街だったんだろ?」


 「御金様儲けの場所が、いくつもありやあした」

 「ストラ氏が滅ぼしたんだって?」


 「滅ぼしたっちゅうか……なんだかってえヤツと旦那が戦ってたら、山みてえに煙が上がって、勝手に滅んだんでやんす」


 「滅ぼしたと同義だよ」

 オネランノタルが笑う。

 「誰か来たぞお」


 ピオラの声がし、3人が少し離れて闇の中でもさらに物陰へ潜む。ピオラなどは、その大きな身体をどうやって隠しているのかというほど、見事だった。森の中で狩りをする能力だ。


 「てめえ、こっちだ」


 4人ほどの男どもが、1人を連行している。4人のうちの1人が、小さなランタンを持っていた。


 「金のねえ奴は、ここじゃ犯罪者だ」

 「犯罪者がどうなるか……わからせねえとなあ」

 「おゆるし……おたす……」


 既に相当に痛めつけられているのだろう。男は助けを呼ぶ声すら上げらぬほど、憔悴している。フラフラだ。


 「なぁに、人間の臓物を買い取る魔族だって、いくらでもいるんだよ。最悪は、身体で払ってもらって、きれいな身・・・・・で土に帰りな」


 「ひぃい……!」

 男たちが、狭い路地を行ってしまった。

 「……人間の臓物なんか、なんにするんでやんす?」

 プランタンタンが、オネランオタルに尋ねた。

 「知るもんかい。ウソだと思うよ。脅し文句ってやつじゃない?」

 「へえ……」

 「おおい、あっちに行ってみようぜえ。えらい、騒いでるよお」


 トライレン・トロールの超聴覚が、表通りから響く雑踏のざわめきの中から、確実に人々の騒乱の物音を聞き取っていた。


 オネランノタルも、すぐさま魔力でその様子を探る。


 「……本当だ、通りで殴りあいだね。でも、私闘じゃないね。周囲に、客があふれているよ。野次馬じゃない、客だ。金を払っているもの」


 「はあ……」

 プランタンタンも耳を澄ましたが、流石に分からなかった。

 「見物客だってえんなら、賭け試合かも?」

 「賭け試合だって?」

 オネランノタルが、四ツ目をプランタンタンへ向ける。


 「へえ、ギュムンデでやってたんでやんす。ストラの旦那が出て、えらい儲けやしたが、どうしても旦那は、どうにもこの……強すぎた・・・・んでやんす」


 「そらそうだろ、魔王なんだから」

 オネランノタルが声を殺して笑う。

 「人間の賭け試合なんかに出ても、賭けにならないだろ」

 「へえ、でも、最後のやつはでっけえ魔物でやんした」

 「魔物を賭け試合に!?」

 オネランノタルが、今度は甲高い声でそう驚いて、


 「逆に、ひどい試合だね! ストラ氏がその魔物を倒すまで、無駄に挑戦者を殺していたんだね! それに、どうやって人間が魔物を?」


 と、そこまで云って、オネランノタルもピンと来る。


 「そうか、裏の試合に協力していた魔族がいたんだね! 物好きな魔族もいたもんだよ」


 そのオネランノタルの言葉には、プランタンタンとピオラが驚いてオネランオタルを闇中で見つめた。


 (この御仁、自分のほうがとんでもねえ物好きな魔族だっちゅう自覚がねえでやんす)


 ま、どうでもいい。ピオラもスルーした。それより、

 「ちょっと、人間のそのかけ試合を見てみよおぜえ」

 そう云ってピオラ、先に歩き始めた。

 その途中、周囲に耳を傾ける。


 「……いっか所じゃねえなあ、試合をやっているのはよお。さん……よんか所くらいででやってるみてえだあ」


 「ずいぶん盛んなんだねえ。近いところでいいよ」

 「こっちだあ」


 表通りにはけして姿を現さずに、3人は路地から路地へと闇を渡り歩き、とある交差点に出た。裏通りにしては大きな十字路で、ストリートファイト会場としてはザンダルでも有名な場所だ。複数の大きな置き松明が火を噴き上げ、辻を囲うように張られた高い位置のロープにはランタンがいくつも吊り下げられており、昼のように明るい。

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