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第13章「ていと」 2-11 九つの牙

 「いったい、何があったんで!」


 ホーランコルが、フューヴァを横目で見た。ホーランコルも詳細は知らない。ストラが関わっているらしい、というのは分かっていたが。


 「魔王が、敵と戦って、ギュムンデは滅んだよ」


 正確には、まだストラは魔王号をレミンハウエルより引き継いでいない時期だった。


 「まぉ……」

 一同が、息と唾を飲んだ。

 「ウルゲリアも魔王に滅ぼされたって……!! ま、まさか同じ奴ですかい!?」

 今度は、1人がホーランコルに尋ねる。

 ホーランコルはまたも杯を一気におあり、ふり返って、

 「そうだ。イジゲン魔王というヤツらしい。オレは、たまたま国外にいたんだ」


 ホーランコルは、フューヴァがストラの名を出さなかったので、機転をきかせてそれに合わせた。


 「イジゲン魔王……」

 無頼の客どもが身を震わせる。

 「なにやら、得体の知れねえ名前だぜ」

 「いま、どこにいるんだ!?」

 「さあね」

 フューヴァが半笑いで答えた。


 「ところでよ、この街の『構成』だけ、簡単に教えておいてくんねえかな。いや、特に何をするってわけじゃねえ。念のために、知っておくだけさ。迷惑かけねえようにな」


 「分かりやした」

 マスターが両手をカウンターにつき、


 「とはいえ、あっしなんぞの下っ端にゃあ、とても全容を把握できるもんじゃあありやせん。それでよろしければ」


 「もちろんさ。大体でかまわねえよ」


 「ザンダルにゃ、知ってる限り26の組があって、それぞれ縄張りを。上下関係は複雑に入り組んでいて、どこがどの組の傘下か……なんてのは、当の組織の連中にも分からねえくらいでさあ。ですが、これだけははっきり・・・・していやす。この街を支配しているのは、『九つの牙』っていう最高上部組織です」


 「九つの牙……」


 「もう、雲の上の上……名前しか知りやせん。牙の皆さん方がどこのだれで、どことつながってこの街を支配しているのか……まったく分かりやせん。だから、意外にもこの街の組織は、互いに小競り合いはするけど、牙の手前、本格的な戦争にはならねえんで」


 「なるほどな」


 うまくできているし、3つの組織が殺伐として延々といがみ合っていたギュムンデに比べたら、まだ暗黒街なりに平和だ。


 (さすがに、皇帝の御膝元だな……)

 フューヴァは感心した。

 「それだけわかりゃ充分だぜ。ありがとよ。じゃ、また来るかもな」

 「いつでも、どうぞ」


 客たちの挨拶を受けてフューヴァとフューホーランコルが店を出て、少し歩いてから、暗がりでふぅと息をついた。


 「や、流石ですね、フューヴァさん」

 冷たい空気に白い息を吐き、ホーランコルが、笑顔でそう云った。

 「なに、アンタがいたからさ。アタシ1人じゃ、ああはいかねえよ」


 それは、真実だった。金と威勢と口先だけじゃ、どうにもならないことがある。腕っぷしの実力が、どうしても必要な世界だ。剣を持っておらずとも、勇者に匹敵する歴戦の戦士ホーランコルの醸し出すたたずまい・・・・・が、フューヴァの言葉に現実的かつ圧倒的な圧力を与える。


 「いきなりあんな酒を飲まされて、小腹がすいてきたぜ、なんか食って帰ろうぜ。表の店・・・でな」


 そう云って表通りを親指で差すフューヴァに、ホーランコルが苦笑した。

 「そうですね」

 2人が、松明やランプの光に照らされる、大通りの1つに向かって歩いた。

 


 そのころ、プランタンタン、オネランノタル、ピオラの3人は、路地裏から路地裏へ、物珍しそうに通りの明るいほうを観察しながら、ゆっくりと暗がりを選んで歩いていた。


 なんにせよ3人とも人間ではないし、暗視能力を有しているので真っ暗闇でも全く問題ない。


 しかも、人間には全く気配をつかませぬ。


 完全に闇に隠れた彼らを認知できるのは、同じエルフか魔族かトロールか、探知魔術に優れた魔術師か、人間離れした感知能力を有する凄腕の暗殺者か狩人か冒険者だけだ。


 どれも、いまこの街の片隅にはいない。

 「ちょっと、街全体を認識しておきたい」


 オネランノタルがそう云ったので、3人で闇から闇へ移り、ザンダルの様子をつぶさ・・・に観察していた。

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