第13章「ていと」 2-6 完全に勘
フューヴァが目を細める。おやじも細めた。これは、感情を読まれないようにする、この手の街に住む者の無意識のクセみたいなものだ。
「やけに、帝都語がうまいからさ」
「ああ……」
魔法で話してるとは云わずに、フューヴァ、本題に入る。
「家を借りたい。できれば、1階か離れに天井の高い吹き抜けの倉庫があるやつだ」
「家? 部屋じゃなくて? それに、倉庫だって?」
「外に仲間がいる。ぜんぶで6人だ。1人が、でかいんだよ。人間じゃねえ」
おやじが苦笑し、
「いくらザンダルだからって、バケモノは御免だぜ」
「バケモノみてえに強いけど、言葉も通じる仲間だよ。見てみろや」
「ふうん……」
おやじがカウンターから出て、フューヴァといっしょに外に向かった。
プランタンタンとストラがいて、そのやや後ろに立っている見上げるような真っ黒い塊に、
「なんだよ、こりゃあ」
「おい、ピオラ、顔を見せてやれよ」
フューヴァが云い、ピオラが無言で魔力のフードをとった。その白い顔と漆黒の髪、北方の泉のような真っ青の瞳におやじが息を飲み、
「こいつあ珍しい! もしかして、トライレン・トロールか!?」
「さすがだな、知ってるのかよ!?」
「ああ。見るのは、初めてだけどな。分かったよ、ちょうどいい空き物件があるんだ……」
云いながらおやじが先に戻り、フューヴァが続いた。
「ナシが早えぜ」
そこからは本当に話が早く、おやじが店からかなり離れた、ザンダルの郊外に近い街はずれまで一行を案内した。ちなみに、案内するときに店からオネランノタルが出てきて、全く見えていなかったおやじがびっくりして飛び上がった。
「ここだ」
「へえ……」
想像していたよりこぎれいで、裏手に倉庫もある、注文通りの理想的な家だった。1階は特に広く、間口も広かった。
「元は、なんかの店だったんだが、つぶれたんだ。こんな場所じゃあ、家賃は安くても客は来ねえよな」
「なるほどな」
「ここでいいか?」
「どうだ、みんな」
ホーランコルも含め、みなうなずいた。ピオラも、倉庫が広く、天井も高くて気に入った。
「じゃ、ここにするぜ。家賃はいくらだ?」
「月に、3000トンプだ」
「高すぎるでやんす!!!!」
それまで黙っていたプランタンタンがまっさきにそう叫んだので、おやじが驚いた。
「いや……こんなもんだよ、ここらじゃ。むしろ、安いほうだよ。一軒家だし……帝都だよ? 物価が高いんだ」
「でも、あっしらは店をやるわけじゃあねえんで。店の相場を出されても、困るでやんす」
「余所のエルフなのに、やけにくわしいな」
おやじが、またも苦笑。
「この街で何をするのか知らないけど……冒険者なんだから、稼いでるんだろ?」
「ゲヒィッシッシシシ……そういう問題じゃねあえんでやんす!」
久しぶりにプランタンタンの下卑た笑いともみ手が出て、
「あっしらは、ここで店を出して地道に稼ぐつもりは微塵もねえんで。かといって、一攫千金をねらって来たわけでもねえんでやんす。ちょいと、何日か滞在するだけでいいんで。ここは空き家の番でもさせるつもりで、特別価格で御願えするでやんす」
「がめついね、どうも」
おやじはむしろ、楽しくなってきた。
が、商売は別だ。
「だめだよ、あんたらがこの街に何しに来て、何をしようと知ったこっちゃない。むしろ、知らないほうがいいんだ。ここは、そういう街だ。その保険もあるんだから。わかるだろ?」
「分かりやす! 分かりやす! そこを何とか……1500でいいでやんすから」
「半額じゃないか!」
「でも、ホントは800か1000くらいが相場だと思いやすがねえ……」
内心、おやじがギョッとして胸を高鳴らせる。その通りだった。同類とはいえ、よそ者なのでめちゃくちゃぼってるのである。もっとも、同類なのでこの程度とも云えた。これがカモなら、さらに倍を提示している。
ちなみにプランタンタン、帝都やザンダルの家賃相場を知っているわけがなく、完全に勘だった。そこが、プランタンタンの恐ろしいところだ。
「1600にしやすから、御願えでやんす!」




