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第13章「ていと」 2-4 ザンダルへ

 「なあに、いざとなったら大公の魔術でも私でも、いくらでもゲーデル山脈に運んであげられるし、氷漬けにもしてあげられるから、心配はいらないよ! それより、ホーランコル」


 「あ、は、はい!」


 いきなりオネランノタルに呼びかけられ、ホーランコルが緊張した。準魔王クラスの上級魔族に名や存在を認識されているという事実に、情緒が追いつかぬ。


 「宿を取るつもりかい? それとも?」


 「あ、はい……あの、宿より、空き家を丸ごと借りたほうが何かと良いかと」


 「さすがだね! ピオラも入れるような?」

 「そうですね……天井の高い倉庫付の。ピオラ殿には申し訳ないですが」

 「あたしは、道端でもいいよお」

 大きな黒カーテンゴーストがそう云うが、


 「ま、そうおっしゃらず……目立ちますので」

 「目立つと面倒だしなあ」

 「はい、そうです」

 そこでオネランノタルが、

 「分かったよ! じゃ、そういうことで。任せておいてよ!」


 魔族にそう云われて、素直に頼もしいと思えるほど、ホーランコルは経験も度胸も心構えも無かった。つまり、不安しかなく動悸が治まらないのだが、もう、なるようになるしかない。


 「頼んだぜ、オネランノタル! いい家を見つけてくれよ!」


 「そうでやんす! なるべく安い家賃で借りれるよう、交渉するでやんす!」


 フューヴァとプランタンタンが楽しそうにそう云い、ホーランコル、この2人には素直に感心した。魔王に最初から付き従っていると、オネランノタルていどの魔族など、なんとも思わないようだ。


 オネランノタルも甲高い声で楽しそうに、

 「ィイヒヒッヒヒヒヒ!! いざとなれば、洗脳すればいいだけさ!」

 その言葉にホーランコルは心臓を高鳴らせたが、

 「ハハハ! その意気だぜ!」


 フューヴァがそう云って笑い、いちいち反応している自分が馬鹿らしくなった。


 (魔王の手下って、意外と疲れるんだな……みなさん、すごいな……)

 大きく嘆息し、薄曇りの天を仰いだ。


 街道からザンダル市外に入ると、とたんに雰囲気が変わった。主街道から入ったので、表通りは大きな歓楽街の閑散とした昼間の光景だ。旅人が遊びに来る時間帯ではもちろんなく、なにより一行には大小の真っ黒なカーテンゴーストがくっついている。ホーランコルやストラが帯剣しているので冒険者らしいというのは分かるが、それ以外のメンバーが不思議にして不気味すぎる。


 つまり、最初から「わけあり」としてみなされる。昼間なので数は少ないが、一行を見る目があからさまにそういう眼・・・・・であった。


 「なんか、マジで懐かしい雰囲気だな」


 フューヴァがそう云って顔をゆがめた。「そういう眼」など慣れ切っていたし、またギュムンデでの記憶の数々が、PTSDめいて脳を襲う。


 が、今の自分はもう違う。

 魔王ストラの腹心(の、はず)なのだ。


 「こういうマチはよ、流れモンも多いから、空き部屋や空き家も多いと思うぜ。裏通りに入ってみようや。ちょいと、物騒だけどな。でも……」


 フューヴァが一行を振り返り、


 「アタシだけならいいカモだろうけど……この一行を襲う馬鹿は、まさかいねえと思うけどなああ!!」


 最後はそう声を張り上げて、フューヴァが周囲を見渡した。閑散とした通りにもちろん誰もいないので、ホーランコルは不思議だったが……サッと建物や路地の影に隠れる気配を複数、察知した。


 (なるほど……既に監視されていたのか。フューヴァさん、ギュムンデの出身だけあって、流石だな)


 そういうホーランコルも、瞬時に気配を掴むのは流石なのだが。

 「どこか、住居の斡旋所でもありますか。それとも、酒場が開くまで?」

 「いいや、斡旋所があると思うぜ」

 フューヴァが答えた。我々で云う、マチの不動産屋のようなものだ。

 「だれか捕まえて、聴きますか?」


 「それもいいけど……どうせ、紹介料をぼったくられるぜ。オネランノタル、魔法でなんかわかんねえの?」


 「もちろんわかるよ。魔法じゃないけど」


 分かるんだ……と、ホーランコルは思った。何をどうしたら分かるのか、見当もつかなかったが。


 「なんでもいいぜ」


 フューヴァがそう云い、オネランノタルがホーランコルに変わって先頭に立った。

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