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第13章「ていと」 1-16 死者街道

 秋口に、ウルゲリアに買い付けに行った商人が戻ってこず、次に訪れた商人たちが、ウルゲリアの手前で混乱する人々の中に仲間を発見した。事態を飲みこんだわけではなかったが、


 「とにかく、ウルゲリアが滅亡した」

 ということだけは分かった。

 「しかも、ただの滅亡ではない」

 「どうして、どうやって滅亡したか、だれ・・にも分からない」


 「周辺はまだ人が住めているが、奥地は誰も立ち入れない荒廃した土地になった」


 「探索・・に出たものは、誰も戻ってこない」

 「穀倉地帯は、全滅した」

 「食糧は買い付けられない」


 現実と絶望に青ざめて、転がるようにメンゲラルクに戻り、連合政権を束ねる諸領主に訴えた。


 領主たちも報告を受けて色めきだち、急いで帝都周辺の農村地帯やデューケスから買い付けを行ったが、デューケスやフォーレンスとて大なり小なりウルゲリアから食料を買い付けていたことに変わりはなく、瞬く間に値段が高騰。本来必要な量の1/10も買えなかった。また、そもそもよそに売るほど収穫があるわけでもない。化学肥料も農薬もないこの世界では、ウルゲリアの肥沃すぎる天然の大地が、むしろ異常なのだ。


 連合では急ぎ対応を話し合ったが、互いに些少の蓄えを出し合うほかに成す術がなく……。


 すぐに冬が来た。


 春まで持てば、最悪的にはデューケスや帝都に略奪に行くほかはなかったが……年が明けて雪深くなるころには、領主たちでもどうしようもないほど、飢餓が蔓延した。


 兵士が脱走し、流民が暴徒化して、それらに城を襲われた領主すらいる。


 連合政府は機能せず、メンゲラルクは、春を待たずに壊滅状態だった。雪の融けるころには、人が人を食った跡がそこかしこに見つかるのは、必定の事態となっていた。


 そんな場所に、ストラ一行は入った。

 まさに、カモがネギを背負しょってやってきたようなものだが……。

 「空気が悪ぃな、この土地はよ」

 寒風に死臭の漂う土地の陰気に、フューヴァが眉をひそめた。


 「どうやら、デューケス以上の惨事になっているようですね、殿下」

 キレットも、空間全体に漂う異様な雰囲気に、目を細める。

 「助ける義理も義務も無ければ、方法も無い。行くぞ」

 無表情で云い放ち、街道を往く。


 いつぞやのルートヴァンのセリフではないが、魔法は、思っているほど便利ではない。飢えも救わないし、土地を肥沃にもしないし、害虫や疫病に対処もしない。そもそも、この世界の住人にそういう発想がない。魔法で、腹は膨れない。


 数日で諸州連合メンゲラルクど真ん中・・・・を抜けると、そこはもう帝都圏だ。ノロマンドル・チィコーザ方面からの帝都街道は、山あいや谷間の続くメンゲラルクから、扇状地を含む帝都平原に至る道だった。帝都自体は、宮城を護る各国からの警備駐屯兵の他は大した兵力はなかったが、なにせ冒険者の本場で、冒険者から転職した自警団も多い。ノーイマルを拠点とする大手自警団組織はもう本格的な都市警備兵と云ってよく、ちょっとした国の正規兵より強かった。まして、帝国魔術師協会があり、高レベルの魔術師がやたらといる。本来は帝都防衛用だが、魔術師協会で管理するゴーレム兵が動けば、野盗や流民、暴徒の群れなど、物の数ではない。


 メンゲラルクに入った途端、真冬の街道に、死体が累々と転がっていた。みな凍っている。村々や町から逃げ出し、帝都やデューケスへ向かおうとして力尽きた人々だ。


 このあたりの街道は幅が2メートルあるかないかで、非常に邪魔だった。

 しかも凍りついており、道にへばりついてた。

 いちいち避けるか、跨いで通るしかない。


 そんな老若男女の死体が、数メートルおきに延々と転がっている。なかには、凍った死体を何か獣か魔物がかじった跡も多かった。


 まさに極寒地獄絵図であったが、

 「参ったな、こりゃあ……」

 フューヴァがうんざり・・・・してつぶやき、

 「ルーテルさん、邪魔だぜ、こんなもの、魔法でどかせられねえのかよ」


 魔法があり、魔獣がいて、宗教も価値観も違うこの世界、とうぜん死生観も根本からちがう。霊魂という概念が薄いためか、死者に対する尊厳が、そもそも薄い。墓くらいはあるが、死後の世界とか、天国とか地獄とかいう概念がほとんど・・・・無い。神と云えば現実に・・・世界を支える大魔神メシャルナーであり、死後の安息を約束するものではない。モンスターにも、いわゆるアンデッドがいない。たとえ死体が動いてたとしても、それは「死体を動かす魔物」の仕業だ。生とは生成であり、死とは消滅であった。それ以外にない・・・・・・・。出し殻に価値が無いように、意識(魂魄)の抜け殻に価値が無い。

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