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第13章「ていと」 1-15 メンゲラルク諸州連合へ

 「……なな、なんだ!? こいつ!?」

 ようやく街の人々が事態を把握し、立ちすくんだ。


 「おまえらあ、大明神……イジゲン魔王サマの一行と知ってて襲ってきたのかあ?」


 うっすらと冬の曇り空の合間より冷え冷えとした月光が差し、ピオラの巨体が浮かび上がった。


 「ま……魔王だってえ!?」


 「そおだあ。あたしなんかじゃねえ、魔王サマの一番の手下のおっかねえ魔法使いが気づいたら、こんなもんじゃねえぞお」


 「逃げろ……!」

 人々が、転がるがごとく立ち去った。

 それを見送って、ピオラ、嘆息交じりに、

 「番人よお、なんなんだあ、あいつらあ」


 「ィイーーーーッヒヒッヒッヒッヒ……こんな状況だ、冒険者を襲って金品やら少ない糧食やらを奪おうってハラだったんだろうけど……相手が悪かったね!」


 「冒険者をお? あいつらがあ?」


 「初心者や中級の冒険者にとって、あんな連中が一番の敵だよ。油断しているからね。まさか宿場の連中に襲われるなんて、思ってもいないだろうさ」


 「へええ……」

 闇に一瞥をくれ、ピオラが踵を返した。

 オネランノタルも少し浮遊してそれへ並び、

 「しっかし、連中、ピオラでよかったよ」

 「どおしてだよお?」


 「大公の魔法防御だったら、問答無用で肉片になっててもおかしくないだろうよ!」


 「タイコーはおっかねえぞお」

 ピオラが眉をひそめて、首を縮めた。

 「まったくだ、魔族より恐いよ、あの人間は!」

 


 2日後、一行は冬街道の野営を続けて街道を迂回し、デューケス王国の王都ラッペルリに到った。


 が、王都は封鎖されていた。


 昔ながらの半城壁都市で、王都の半分が高い石垣塀に覆われている。残りの半分は台地に連なっており、侵入しようと思えばできるが、生半可な登坂能力では難しいほどの断層崖におおわれていた。とうぜん、雪や氷が厚く堆積する冬にそこから侵入しようという者は、よほどの冒険者か物好きだ。また、大回りして台地をゆるやかに上る手段もあるが、これも野獣や魔物がおり、よほどの冒険者か物好きにしかお勧めできない。


 「殿下、いかがいたしましょう、王都に入れるよう、交渉しますか?」

 ホーランコルがラッペルリを遠目に、判断を仰いだ。

 「それとも、魔法などで侵入しますか?」


 「入ったところで、いろいろと補給や休息ができないのであれば時間の無駄だろう。帝都に急ごう。流石に帝都近郊は、こんな状態ではあるまいよ」


 ルートヴァンの決定で、一行はそのままデューケスを抜けた。

 デューケスからリューゼンに至るまえに通るのが、メンゲラルク諸州連合だ。


 いわゆる「合衆国」に相当するが、アメリカのような大国なわけではもちろん、無い。


 27もの独立国衆がまとまって国のようなものを構成し、協力し合ってなんとかやっている。


 どうして、帝都のすぐ近くにそのような弱小領主が集まっているものか……。

  結論から云うと、たいした理由はない。

 「たまたまそうなっていた」というしかない。


 バーレン=リューズ神聖帝国成立より1000年余が経ち、構成する国で1000年の時を共に過ごしているのは、厳密にはもうチィコーザ王国しかない。


 あとは離散集合と建国亡国を繰り返し、帝国の内部は常に流転し、版図も拡大と縮小を重ねている。


 メンゲラルク諸州連合にあっては、かつてはメンゲラルク侯国や他の幾つかの王国、諸侯領があった時代もあったが、120年ほど前より小さな群雄割拠状態で、統一に成功するほど強力な領主も特に現れず、争いに疲れた諸侯がいつしか助け合い、婚姻を進め、軍を出し合って治安を維持し、連合政権を打ちたてて、平安を得てささやかに暮らしていた。


 そこが、30年ほど前に金を出し合ってウルゲリアより食糧の輸入に成功した。

 食糧に余裕ができれば、人口が増え、開墾もできる。

 帝都圏向けの換金性の高い作物や産業にも手が出せる。


 そうして、金を稼いで、さらにウルゲリアからの輸入を増やし、諸州連合は地道に発展を続けていた。


 30年で人口が4割も増え、税収も上がり、人口を賄う食糧も4割をウルゲリアの穀物や加工乳肉製品に頼った。


 そこで、ウルゲリアが突如として・・・・・滅亡した。

 まさに、突如として、だ。

 青天の霹靂へきれきというレベルではなかった。

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