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第13章「ていと」 1-14 飢えた虫

 関所の向こう側の闇にうずくまる流民たちを覆い隠すように、突如として猛烈に雪が降ってきた。


 

 夜なのだから、村も真っ暗なのは当たりまえだったが、宿場なので、それなりに明かりはあるものだ。それが、本当に真っ暗だった。


 「どこが宿でやんす?」


 夜目の効くエルフのプランタンタンですら、あまりにひっそりと静まり返った街道筋に、眉をひそめた。


 「みんな、寝てしまっているようですね……」

 ホーランコルも、違和感を隠せない。


 「関所で聴いた様子だと、宿など開けている場合じゃないのだろうな。宿で食事をして、糧食を節約したかったが……もう少し進んで、野営にしよう」


 ルートヴァンの提案に、一同がうなずく。

 そして、そのまま宿場を抜けてしまった。

 我々で云う午後8時ころまで歩き、冬の街道で野営した。


 あの、零下20℃にもおよぶガフ=シュ=インでの野営に比べれば、マイナス5℃ていどの気温など、ピオラが暑いというのが理解できるほどだ。が、慣れれば、それでも寒いには違いない。(ペートリューを除く)魔術師部隊のかける寒さ除けの魔法の効果もあり、湯を沸かす小さなコンロのようなもので充分に暖が取れた。一行の着ている、厳寒装備用の毛皮も役に立っている。異様に暖かく、気温がプラスに近づく日中などはむしろ暑いほどだ。


 チビチビと乾パンや干し肉の簡易糧食をとったが、


 「いざとなったら、オネランノタル殿が次元倉庫にためている竜肉を少し拝借する必要があるかもな」


 1人で焼いた竜肉をバリバリとかじっているピオラのほうを向き、ルートヴァンが苦笑した。竜肉は、美味な種もあるが、基本的に臭くてマズイ。同じほどまずい家長牛ゲルクしか食べるものの無いガフ=シュ=インの地の果てならまだしも、帝国内ではあまり口にしない。まして、王族貴族がけっして食べることのない、禁忌タブー食のようなものだ。


 が、みなが食料御節約している中、そこらの枯れ木や生木を集め、豪快に肉を焼いているさまは、御馳走にすら見えてくる。飢えに苦しんでいる人々にとっては、なおさらだろう……。


 「補充してあるから、大丈夫だと思うよ」


 少年(少女?)姿のオネランノタルが、魔力の合成音声でそう云った。いつの間に補充していたかというと、もちろん、チィコーザに滞在中にだ。チィコーザの魔力に満ちた大自然にも、各種のゲドルがたくさんいる。


 ささやかな食事を終えた一行は、そのまま4つのテントでめいめいに休んだ。

 深夜……。

 異様に冷えこんだが、相変わらずピオラだけ外で寝転がって平気だった。


 本来であれば、常時数十キロ単位で自動三次元深層探査を行っているストラが気づくべきであるが、いまはメインプログラム修復中で、探査は作動していない。


 従って、最初に気づいたのはピオラだった。

 次いで、オネランノタルだ。


 魔術師陣の警戒魔法は、せいぜい範囲が数十メートルだが、ピオラの超感覚は、150メートルほども向こうから闇の中をヒタヒタと一向に近づくひとびとをとらえた。


 「なんだあ?」

 「村人じゃない?」

 ピオラと共にいるオネランノタルが答える。

 「なんで村の連中があ?」 

 「さあね。聴いてみれば?」

 「そうするかあ」


 闇を見通す眼を持っているピオラが、凍りついた地面の上からのっそり・・・・と起き上がった。


 そのまま暗闇の中を迷うこともなくまっすぐ歩き、100メートルも進むと、小さな明かりを持った一段と遭遇した。


 まさかこんな距離で見つかってるとは考えもせず、宿場から出てきた男たち20人ほどが、


 「何の用だあ?」

 いきなり闇から声をかけられて、

 「うわああ!!」

 思わず悲鳴を上げて何人かが腰を抜かしてひっくり返った。

 「ま、まさか、見つかったのか!?」

 「やっちまえ……!」


 手に手に大型ナイフやら、肉切り包丁やらをもった一行が、多勢に無勢とばかりに声の主に踊りかかったが……。


 「どんなばか・・だい、こいつら」

 オネランノタルの苦笑と同時に、全員が冷たい地面に転がっていた。


 ただし、ピオラにしてみれば、殺す価値もない。戦闘ですらなかった。手で虫を払ったに等しい。

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