第13章「ていと」 1-10 帝都圏
ざっくりと数えると、帝都周辺に7つの市街地と12の田園村落があり、大きな経済圏を形成。帝都州とも、帝都国リューゼンともいえるものを形成しており、総人口は約80万。帝都だけの10倍に至っている。
12の村落は、田畑の広さが違うだけでそれほど大小や特徴に差はなく、総人口で4万ほどであり、詳細は割愛する。
衛生都市で最も大きいのはノーイマルという都市だった。総人口は28万ほどもあり、巨大にして雑多な都市であった。この街だけで、下手な小国の総人口や、中堅国の王都並の規模がある。活気に満ち、明るく、帝国の一般の人びとが抱く「帝都のイメージ」は、宮城とその城下町、そしてこのノーイマルの街なみであった。東方諸国、南方からの街道の出発点にして終着点であり、東方系の人口が多く、南部系も集まっており、その子孫も多い。また冒険者が集まる街でもあり、いわゆる「帝都の冒険者」は、このノーイマルを拠点にしている。かつて、キレットとネルベェーンも雇われ冒険者・魔獣使いとして、この街を拠点に帝国中を旅して歩いていた。
ノーイマルと単純に比較できないが、副次的な中堅経済圏として栄えているのがスメトチャークである。人口は約10万。位置的に帝都を中心にノーイマルと正反対にあって、西方街道と通じている。従って西方人や西域系の子孫が多く住み、全体にエキゾチックな雰囲気であった。
次が、卸売街であるロフラーとグーヌベリック。人口はロフラーが約8万、グーヌベリックが7万と、似たような規模の街だった。ロフラーが周辺農村から農産物・畜産物を買い付けて他都市に卸し販売を行って、一大食糧基地として機能し、帝都圏の食を賄っていた。グーヌベリックは、次に紹介する2つの職人街・製造業街からの製品を取り扱って、卸し販売を担ってた。また、2つの街は他国からの輸出入も取り仕切っていて、巨大市場街でもある。
残る2つの都市が、鍛冶職人やその他の製品を作る職人が多く暮らす職人街であり、鍛冶商人、建築木材石材等の職人が多く住むツラフターと、その他の細かい家具、生活用具、衣服等の職人が多く住むリュスカである。ツラフターの人口が約3万、リュスカが約5万と、これも似たような規模の街であり、この2つの街は隣り合ってるので、交流もあり職人や商人が常に行き来している。
最後が、暗黒街ザンデルだ。
暗黒街というが、皇帝のおひざ元にそんなものが存在してよいわけがなく、表向きは歓楽街だった。
人口は約7万だが、昼間人口で、夜になると倍以上になる。賭博、女遊び、飲み屋、各種の競技場が建ち並び、裏では魔薬の取り扱い、禁呪に関わるもので流通が禁止された原材料取り扱い、殺し、呪術となんでもござれ。かつてフランベルツにあった歓楽都市ギュムンデとほとんど同じ街で、やっていないのは闇の賭け闘技場くらいだった。なお闇闘技場は、そもそもフィーデ山の火の魔王レミンハウエルが、手下を使って生体兵器としての魔物の性能試験を兼ねて行われていた側面があり、人間が魔物を取り扱うのはなかなか難しく、興行的にもリスクはあってもメリットがあまり無いので、ザンダルでは行っていない。
が、その代わりストリートファイトめいた規模の小さな賭け試合は、あちこちで盛んに行われていた。悪徳やくずれを含む裏冒険者の良いバイトになっていたし、チャンピオンともなると裏組織や、場合によっては皇帝騎士へのスカウトもあった。
「行くとすれば、ノーイマルだろうな。魔術師部隊は、できればリューゼンに滞在したいが……宿が無くてね、あの街は。僕らだけ部屋を借りてしまうという手もあるけど……少し離れるが、ノーイマルに滞在することになると思うよ」
ルートヴァンがそう云い、まず帝都近郊のノーイマル市を目指す。この中で帝都に詳しいのは、ルートヴァン、キレット、ネルベェーンの3人だが、3人ともストラたちとは別行動になる。残るメンバーで、一般的に常識人なのはホーランコルだけなので……必然、ホーランコルがストラたちをまとめなくてはならない。
が……。
(人間にしか見えない魔王様は良いとして……ピオラ殿とオネランノタル殿を、人目につくだろうそんな大きな街に住まわせられるものか……?)
ホーランコルは、既にそう考えていた。
「では、出発する。ペッテルよ、到着したら連絡する」
「畏まりました、殿下」
公爵家にも旅の装備を用意しておらい、大荷物の一行がペッテルの屋敷から出る。
「おっと、その前に……ペッテルよ、助手はいらないか?」
「助手……ですか?」
ペッテルが、小首をかしげた。いままで助手などというものを使ったことがないので、想像がつかなかった。
「ま、何かと便利だろう……」
云いつつ、ルートヴァンが杖を振ると、いつのまにやらそこにいたのは、リースヴィルであった。




