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第13章「ていと」 1-8 無楽仙人/マーラル

 「仙人とは……?」


 ルートヴァンが、聞きなれない言葉に、眉をひそめた。いくら魔術を極めていても、帝国西方のことはそれほど詳しくはない。同じ帝国内とはいえ、まったくの異郷だからだ。


 「西方の、超人です。神仙ともいい、魔術、体術、その他の秘術を極め、不老不死を得た人々のことだとか……」


 「不老不死だと?」

 ルートヴァンが、鼻で嗤う。


 「元より人外や人の身を捨てた魔王でもあるまいし、人間にそんなことは不可能だ。ま、比喩だろうな。魔王ならまだしもな」


 「いかさま」


 「で、マーラル市国を建てたマーラルというのも、いまとなっては正体が不明と?」


 「それが……おそらく、この無楽仙人様なる人物とマーラル様が、同一人物なのではないか……と」


 「なぜ、そう思う?」


 「同時に名前が現れませんし、マーラル様は何らかの理由をもってマーラル市国をうち建てたわけですが……700年後に、これも何らかの理由により滅亡。どこにあったのかも伝わっておりません。まさに、幻の都です。一切の資料が、おそらく意図的に廃棄されました」


 「そうだな」


 「ですが、マーラル市国にはその無楽仙人様なる人物がずっと住まっており、いまでも、市国のあった場所の近くに庵を組んで住んでいるとのこと」


 「今でも、だと?」

 「ハイ。不老不死ですので」


 「だから、比喩だろう。そんな人間はいない。もしかしたら、違う人物がその無楽仙人なる名称を引き継ぎ、何代目かの仙人がいるのでは?」


 「常識的に考えれば、そうでしょうが……この仙人が魔王であれば、つじつまが合います」


 「そうか……マーラル市国にいたという、謎の魔王であればな」


 「それで、マーラル様がタケマ=ミヅカ様より密命を受け、市国を建国していたとすれば……市国を滅ぼしたのも、マーラル様なのではないでしょうか。やもすれば、タケマ=ミヅカ様がそう指示をしたのかも」


 「待て。700年後だぞ。マーラルとやら、であれば……」

 「そうです。魔王……かも」

 「なるほど……マーラルも、魔王になった可能性があるな」


 「ハイ。マーラル様が魔王とすれば、市国の滅亡後に、行方をくらましたのではないでしょうか」


 「なるほど……」


 「そして、無楽仙人様が今でも市国の近くに住んでいるというのであれば……どちらも魔王の可能性があるのであれば……マーラル様と仙人様が、つながるような気がするのです」


 「フフ……素晴らしい! ペッテルよ、素晴らしい推論だ」


 ルートヴァンが不敵な笑みと鋭い視線でペッテルを見やり、ペッテルが恐縮して、


 「お……御褒めにあずかり、光栄に御座ります!」


 「無楽仙人とやらを探し出せば、その者が魔王マーラルかもしれない……というわけだな」


 「いかさま」

 ルートヴァンが満足げに何度もうなずき、


 「表向きには姿を消しておきつつ、その実、今でも市国のあった場所を守護か監視しているのだろう。なにやら、市国の滅んだ秘密に関してのことで、な」


 「そうなるでしょう」

 「なるほどな……分かった。フフ、それで、例の計画は?」


 「あ、ハイ……私の『鍵』を使えば、ひそかに殿下やほかの魔術師の方々も地下書庫に入ることができます。残念ながら魔術師でなくば、迷宮のごとき地下書庫で、迷ってしまうでしょう。帝都に到着し、まず魔術師協会の図書館に入っていただき、そこに私が迎えに行きます。そこから、地下書庫に参ります」


 ルートヴァンがうなずいた。

 「なるほど、協会図書館にも有益な情報があるかもしれんな」


 「それもありますが、タケマ=ミヅカ様より頂いた『鍵』の出入口が、最初から地下書庫と協会図書館と、私の研究室に設定されていたのです。私に、それらを変える能力や方法はありません」


 「ほう……」


 すなわち、タケマ=ミヅカの作成したパスは、魔術というより魔法の道具アイテムであることを示す。


 「分かった。ついでに、図書館で同様にマーラル市国や魔王ゾールンに関することも調査するとしよう」


 「では、頃合いを見て、連絡を。迎えに参ります」

 「頼んだぞ」

 「畏まりました」

 ペッテルが触角をピョコンと立て、薄い少女の胸に右手を当てた。


 「地下書庫へは……僕とキレット、ネルベェーン……それにペーちゃんも頼むよ」


 それを聞いた3人が、息を飲んだ。ペートリューですら・・・真顔になって、水筒を手から落としかけたほどだ。

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