第13章「ていと」 1-6 宇宙船ヤマハルの基礎フレーム
「……すごい!」
その素材や自作の工具の数々を見やっただけで、キレットとネルベェーンは魔法技術者としてのペッテルの優秀さを分かり、感嘆した。
「申し訳ございません、これでも片付けたつもりなのですが……どうぞ好きなところに、御座りくだされ。あっ、あ、あの、魔王様と殿下は、どうぞこちらに……」
ピオラは狭いのと暖炉の火が暑いので、既に外で待機している。8人が入るには少し狭かったが、めいめいが席に着いた。
「御茶も出さずに……少し、御待ちを」
「かまうな、ペッテルよ、我らは客ではない。さっそくだが、フローゼはどうだ? 直ったのか?」
暖炉にかけていたケトルを取ろうとしていたペッテルが、動きを止めた。振り替えって、
「……申し訳ございません。まだしばらくかかります」
「そうか……」
ルートヴァンが少し、意外そうな顔をした。だが、すぐに状況を見極める。
「と、いうことは、かなり改造しているな?」
「はいにして、いいえです、殿下。改造ではなく、ほとんど新造です。再設計を行っています。これまでと同じ材料や設計では、魔王様の戦いについてゆけません」
「なるほど……」
ルートヴァンが目を丸くしていたが、すぐに不敵な笑みを浮かべ、
「相当、強力になると観た」
「はい。しかし、基本的な躯体の素材が……鉄やそこらでは、もう強度的に耐えられません。しかし、私は冶金や錬金は本領ではなく……」
「ふうむ……」
それは、ルートヴァン達も同じだった。同じ魔術師や魔法技術師でも、分野がある。
「だれか、適当な人材がいないか、帝都で探してみるか……」
ルートヴァンがそう云ったとき、ストラが、
「もしよければ、この座標に、強力な素材が」
「え……?」
ペッテルがストラを見やった。既に、ストラはそこらにあるフルトス紙の切れ端に、この世界の数字で座標点を書いており、ペッテルに差し出す。
それを受け取り、ペッテル、
「ここは……?」
そのまま、部屋の隅から大きな地図を出し、ものであふれる大きなテーブルの上のものを強引にどかし、広げた。
みなが、自然とその周囲に集まった。
ペッテルが地図に定規で線を引き、座標を特定する。
「海のどまんなかでやんす」
プランタンタンの声に、ルートヴァンがニヤリと笑う。
「海は海でも……プランちゃん、どこの海かわかるかい?」
「さっぱりわからねえでやんす」
「フューちゃんは?」
「同じくだぜ」
「ペーちゃんは……分かるだろ?」
60度ほどもあるレベヂ酒を水筒からラッパ飲みのペートリュー、据わった目で地図を見下ろしていたが、
「ゲベロ島の近くですね……もしかして、ストラさんが戦った、あの大きな空飛ぶ船ですか?」
プランタンタンとフューヴァが手を打ち、ルートヴァンも、
「さすがだよ、ペーちゃん。聖下、あの天を割るゲベロ人の大船の材料をペッテルに?」
宇宙船ヤマハルである。
北海の魔王ロンボーンが、最後までこだわった。狂うほどに。その様子は、第9章に記してある。
「ハイ。未知素材ではありますが、ペッテルであれば加工は可能かと。次元航行宇宙船ですので、その基礎フレームはこの世界のどの金属より強力と推察します。ただし、水深3000メートルの海の底です。回収する方法は、ありますか?」
「海の……?」
山育ちのペッテル、いまいちピンと来なかったが、転送移動を駆使する道具はあるし、回収のための自律式魔法船なども余裕で製作できる。一種のゴーレムなのだから、ペッテルの得意分野だ。
「やってみます!」
力強くそう云い、みなうなずいた。
「で、地下書庫はどうだった?」
次に、ルートヴァンが本題に入った。
「ハイ、マーラル市国に関する資料はありましたが……どれも単純な記述ばかりで。また、御存じの通り持ち出しは不可能です。写しは、ここに」
ペッテルが、フルトス紙にしたためた、きれいな帝都語のメモをルートヴァンにさし出した。




