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第13章「ていと」 1-5 ペッテルと再会

 「バラヂーンでも話した通り、ペッテルは異形の半魔族だ。百戦錬磨のお前たちのことだ……いちいち驚き、恐れることも無いとは思うが……」


 「御心配なく。魔王様の忠実にして重要なる御配下に、なにを驚き、恐れるこがありましょうや!」


 ホーランコルのその答えに、キレットとネルベェーンも深くうなずいた。ルートヴァンが満足そうに微笑み、


 「聖下の世とならば、使える者は魔族も使うからな」

 「オネランノタル殿のようにですね!」

 今度はキレットがそう云い、ルートヴァン、

 「その通りだ!!」

 ルートヴァンの力強い言葉に、3人は痺れるように武者震いした。


 「イジゲン魔王様、エルンスト大公殿下、御到ちゃああーーーーーく!!」

 旧公爵邸の門前でグリーゲルがそう叫び、門兵が槍を捧げて出迎える。

 「御苦労、ここまでで良い」

 「ハハーッ!」

 兵士たちの見送りを受け、一行が邸に入った。


 以前来た際は、完全に廃墟というありさまだった旧公爵邸も、要所要所はすでに修復され、かなり見栄えが良くなっていた。少なくとも、庭に瓦礫は1つもない。


 ひさしも修理され、ドアも交換された正面玄関は見違えるようであり、ほぼ雨ざらしだった回廊と大広間も、かなり修理されている。ただ、元より財政難の公爵家だ。これ以上は、時間をかけて直してゆくほかはない。


 「魔王様、大公殿下! それに、みなさまも!」


 大広間の中央で、厚い毛織のコートを着たペッテルが待っていた。経費節約で、広間の暖炉に火はない。また、あの日以降、ペッテルは公爵の椅子には座っていなかった。


 「元気そうじゃねえか!」

 フューヴァが手を振り、

 「フューヴァさん!」

 ペッテルも思わず振り返した。


 しかも、そのペッテルの後ろより、ひょっこりと6~7歳ほどの幼児が現れた。魔力で構成された幾何学文様のローブ姿といい、その黄色地に黒線の肌といい、海草めいた不気味な髪といい、翠と黒の4つの目といい……。


 「おい、もしかしてオネランノタルかよ!? やっと人っぽくなったと思ったら、ガキじゃねえか!!」


 フューヴァがそう叫んで、吹き出して笑った。

 「それでも、ここまで戻ったんだよ!」


 オネランノタルが声だけ変わらずにそう云って、ケタケタと虫みたいに笑った。


 ペッテルが魔族と屈託なく過ごしていた事実に安心し、

 「フ……変わりないか?」

 杖を突いて、ルートヴァンが前に出る。

 「はい、殿下」


 あの、オドオドした様子は微塵もなく、自信に満ちたハッキリとした調子の、これも魔力で合成された声に、ルートヴァンが満足そうにうなずいた。


 「例の件・・・だが……」

 「はい、あとで御報告します」

 「そうか」

 そこでルートヴァンが後ろを振り返りつつ、


 「紹介しよう、ペッテルよ。聖下に忠節を誓う旅と大業の仲間にして、非常に頼りになる戦士と魔術師だ」


 そこでホーランコル達が前に出て、胸に手を当て、いっせいに片膝をつき礼をした。


 「ノロマンドル公女様におかれましては、御初に御眼にかかりまする! 私めは、おそれ多くもイジゲン魔王様の忠実なる使徒の末端を汚しております、戦士ホーランコルと申します! そしてこちらの2人は、優秀なる魔獣使い……」


 「キレットで御座りまする!」

 「ネルベェーンと申す者にて!」

 「あ、あっ……ハイ……!」


 これまで、そのような態度を取られたことがないペッテルがビックリして、その肉食昆虫状の大顎を真横に開き、触覚も背筋もピンと伸びて、硬直してしまった。


 「フ、フ……ペッテルよ、そう緊張することは無い、堂々としていなされ……」

 「あ、は……」

 ルートヴァンに云われ、


 「ハ、ハイ、こちらこそ! ストラ様のため、何卒っ、よろしく……お願い……もうし……」


 そこまで声に出して、下を向いてモジモジし始めたので、ホーランコルらも、なにやら愛おしく感じ、苦笑しながら再度深く礼をして立ち上がった。


 そこでペッテルが、一同を奥の部屋にいざなった。そこはペッテルが通常の生活空間として自ら補修し続けてきた場所で、広く、清潔で暖かい。ただし、工房は地下にあるものの、工作道具や素材で溢れている。

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