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第13章「ていと」 1-4 再びスヴェルツクへ

 長く筋肉質な手足を躍動させ、黒髪と魔力のマントを棚引かせながら、むしろいかにも楽し気にピオラが、


 「ぜえんぜんへいきだあ!! ひさしぶりに走って、きもちいいぞおお!!」


 そう云って、なんと馬とそりを追い越して、どんどん先に行ってしまったのでフューヴァも呆れた。


 「おおーーい!! はぐれるんじゃねええぞおおお!!」

 フューヴァが口に手を当てて叫び、

 「わかってるよおおお……!」

 風に乗って、ピオラの澄んだ声が雪原に響いた。

 


 天候は、晴れたり曇ったり吹雪ふぶいたりを繰り返したが、気温はずっと日中の最高気温も氷点下の真冬日だった。もっとも、この世界に摂氏も華氏もないが。


 街道筋の宿場町に立ち寄りながら西を目指し、ノロマンドル国境まで8日で着いた。馬を飛ばすより、少し時間がかかった。


 チィコーザとノロマンドルの関所もフリーパスであり、一行が御者に別れを告げて公爵領に入る。ノロマンドルもこの季節は雪深く、懐かしい山々の風景も見渡す限り真っ白だった。


 「イジゲン村の温泉が懐かしいぜ」

 「そうですねえ」

 フューヴァとペートリューが、遠くの山脈を見やってつぶやいた。

 「うまくやってるんだろうな、あいつら」


 「ま、公爵も目をかけると云っていたし、大丈夫だろう……お、来たぞ、あれだ」


 ルートヴァンが杖を振り上げた。知らせを受けていたノロマンドル公爵より、替えの馬そりが国境まで迎えに来ていた。


 「用意がいいでやんす」


 毛皮におおわれてモコモコのプランタンタンが、猫みたいに目を細めて感心する。


 「ルーテルさん、公爵さんにあいさつに行くのかよ?」

 「いや、まっすぐペッテルのところに行こう」

 フューヴァにそう答え、めいめいがまたそりに乗る。


 もっとも、そりは小型のものが3台になっていた。国境付近はまだよいが、ノロマンドル公爵領内部に行くにつれ山道となり、大型の馬そり(馬車)は進めなくなる。小型の山岳馬が、4人乗りの馬そりを曳く。それぞれ熟練の御者がおり、荷物置場も確保すると実質は2~3人乗りだ。


 先頭のそりにルートヴァンとストラが乗り、あとはプランタンタン、フューヴァ、ペートリューの3人、最後尾にホーランコル、キレット、ネルベェーンの3人が乗る。ここでも、ピオラは元気溌剌で雪深い山道を駆けまわった。


 歩いても2日で到着する距離であり、その日のうちに公都ヴォルセンツクと旧都スヴェルツクに分かれる峠に到る。分かれ道を旧都側に向い、日暮れ前に「魔の森」に辿りいた。


 そこで冬装備の天幕テントによりめいめい野宿をし、ピオラは馬と一緒に雪の中に寝転がって全く平気だった。


 翌日、雪を溶かした水で簡易糧食を取って、出発する。

 山岳馬とそりは、力強く起伏のある森の中を進んだ。


 森を抜け、しばらく進んだところで、ルートヴァンやフューヴァ達は少なからず驚いた。以前は一面の荒野で、荒れ果てた旧公都が廃墟として遠くに見えていたが、ペッテルを守備する衛兵の兵舎が整然と建ち並び、衛兵たちが整然と並んで一行を出迎えた。


 馬車が止まり、めいめいにそりから降りると、配下を連れた中年の旧都守備隊長兼復興隊長が駆けてきて、胸に右拳を当てて直立不動となる。


 「イジゲン魔王様、エルンスト大公殿下と御一行様におかれましては、チィコーザよりの長旅御疲れ様で御座りまする!! 御初に御目通りが叶い、恐悦至極!! この駐屯地を預かる、グリーゲルと申します!!」


 「御苦労」

 ルートヴァンがそう云い、

 「ノロマンドル公は、御変わりないか?」


 「ハッ!! 公爵閣下におかれましては、皆様方の旅の御無事と大業の完遂、成功を心より御祈り申し上げるとともに、今後もいかなる協力を惜しまぬとの言付けを預かって御座りまする!!」


 「分かった。感謝する。ペッテルに会いたい」

 「ハッ! 御案内いたしまする!!」


 旧都スヴェルツクまできれいに整地・除雪されており、そりは進めないため、みな歩いて向かい、そのまま都へ入った。


 「ずいぶん、修復されてますねえ」


 水筒を傾けながら、ペートリューが周囲を見やってつぶやいた。街中の建物は立て直すというよりむしろ除去され、大通りが形成されていた。公爵の旧屋敷も、種々の建物の修復中だ。


 「ホーランコル、キレット、ネルベェーン」

 「ハッ」

 3人が、ルートヴァンの横に集まった。歩きながら、

 「お前たちはペッテルと会うのは、初めてだな」

 「いかさま」

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