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第13章「ていと」 1-3 ソリが行く

 オネランノタルがいなくても、魔力のマントはピオラの思考を受けて自在に姿を変え、ピオラは全身をカーテンゴーストのように覆いつくす真っ黒いローブ姿で、その2メートル半はあるトロールの巨体を雪景色に際立たせていた。


 (ずいぶん大きな……戦士だか、魔法使いだか分からんけど……?)


 王都民はみな、そう云った奇異の目で一行を見やるだけで、近づこうともせぬ。


 ルートヴァンはそんな下々など最初から相手にもしていないので、そのまま通りを抜けて王都を出た。


 「思えば、この人数での旅は初めてだな」


 ホーランコル、ルートヴァンを先頭に、キレット、ネルベェーン、ストラ、プランタンタン、フューヴァ、フラフラしながらペートリュー、そして最後にピオラと、9人パーティである。勇者や冒険者の一行でも、9人の大所帯は珍しい。


 「いや……船旅ならあるか。なにやら、もう何年も前のように思えるが……秋ごろだったか」


 まだホーランコルがウルゲリアの冒険者で、ラペオン号で船旅をしたさいは、もっと大人数だった。


 「いかさま。あのころは、まさか私めが魔王様の配下となり、このように共に冒険の旅をするなどとは、夢にも……」


 ホーランコルがそう云っている間に王都の町中を抜けて、目ざとくフューヴァが、


 「おい、あれがそうじゃねえ?」


 街道の入り口辺りに、馬そりが待機していた。レクサーン王が用意したものだ。


 これで、雪深い街道を国境まで進むのである。


 チィコーザは内陸国なので、何メートルも積雪があるわけではないが、厳寒期を迎え、降り積もった雪が融けないので根雪となる。街道を含め、一面は大雪原と化していた。


 大きな毛長馬リャドフに御者がおり、天蓋付きで6人乗りの豪華な大型ソリが2台、用意れていた。同じく(ピオラを除いて)防寒着姿の一行が近づくと、ヒゲモジャで厚着の御者の1人が礼をし、大声で、


 「魔王様、大公殿下の御一行様で御座りましょうや!?」

 「そうだぜ!」

 フューヴァが答え、

 「どうぞ、御乗り遊ばされますよう!」

 「御苦労」

 ルートヴァンが横柄にそう云い、適当に人員を振り分ける。


 ちなみに、ストラも別に必要ないが、王が用意した分厚いジーグル鼠の毛皮のジャケットやスラックス、ブーツを装備していた。


 「これ、ピオラは狭いんじゃねえ?」

 フューヴァがそう心配したが、ピオラはむしろ、

 「あたしはいいよお、走って行くさあ!」

 「おい、そういう意味じゃねえよ、遠慮すんなや」

 フューヴァが驚いてそう答えた。


 「いいやあ、ずっと寝そべってたから、身体がなまってるんだなあ。ちょいと動かしとかないと、いざってときに役にたたねえよお」


 ローブをケープマントに展開し、ピオラが体操のように体を動かしてそう云った。じっさい、いつの間にやらストラからラジオ体操を習っていて、よく2人で行っていた。


 「ピオラがそう云うのであれば、好きにしろ。では、聖下、どうぞ御先に……」


 「うん」


 別にストラもソリなどに乗る必要はないが、1台めにストラとルートヴァン、フューヴァ、プランタンタンが乗り、2台めにホーランコル、キレット、ネルベェーン、そしてペートリューが乗った。ペートリュー、王宮で用意してもらった最高級の蒸留酒レベヂ入りの水筒をずっとちびちび傾けている。


 「では、頼む」

 ルートヴァンがそう云い、

 「ハアッ!!」

 御者が手綱をふるい、雪煙をあげて勢いよくソリが出発した。



 「ひゃああ~、風が痛いぜ!」

 吹きつける氷点下の風を受け、フューヴァが震えあがった。


 膝の下ほどまでもある深い雪の中を、白息を吐きながら、大きな毛長馬リャドフがどんどんと進む。太い首に据えられたこれも人の拳よりも大きな真鍮の鈴が、ガラガラと音を立てた。


 その2台のそりの後ろ……いや、もう追い越さんばかりに、雪原を走り抜けるシロクマめいて、ピオラが疾走していた。


 「おいピオラ! 無理するんじゃねえぞ!」


 風を切って進むそりから、フューヴァが横を疾走するピオラに向かってそう叫んだが、じっさいは寒くて口が良く回らなかった。

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