第13章「ていと」 1-1 年明け
第13章「ていと」
1
年が明けた。
一行は新王レクサーンの要望通り、そのままチィコーザ王国で年越しを迎えた。
イリューリ王の崩御とマルフレード王子の戦死が正式に公表され、月の塔家のレクサーン親王が、味方をするふりをしつつ機を見て偽ムーサルクを討伐し、その功をもって新宗家となることが公に知らしめられた。
なお、クリャシャーブ王子がどうなったかは公然の秘密として公表もされず、誰も何も触れなかった。チィコーザのひとびとは、弱った旧宗家を力のある親王家が打ち倒すことを古来から「あたりまえ」として記憶し続けている。
そのような中、ひっそりとアーリャンカが王都近郊のメシャルナー大魔神を奉るシードリー大神殿に入った。ここで、神聖なる最高位の巫女として鎮魂と王国の安寧を祈り続ける。
年末年始の王宮の諸行事には、ルートヴァンとストラだけが参加し、他の者は王城の食客として久しぶりにのんびりと過ごしていた。
ストラは魔王として格別に高い位置に置物のように座らされ(じっさい、彫像のように微動だにしなかった)、チィコーザ新宗家の権威をいやがうえにも高めた。またルートヴァンは魔王の使徒兼ヴィヒヴァルンの賓客として扱われ、賓客席の最前列の最高位の位置に陣取った。その際、急ぎヴィヒヴァルンより魔法で送られてきた王太子兼エルンスト大公の紋の入った最高級魔術師ローブ衣装を着た。
年越しから15日後に、レクサーン新王の即位式と戴冠式が行われ、イリューリ王の王冠が正式にレクサーンに引き継がれた。
そして、魔王ゾールンを封じ続ける宝珠「冬の日の幻想」も。
騎士団と軍団の再編も急がれた。
これまでの宗家交代でも、政治機構はほぼそのまま引き継がれてきた。改革が行われたとしても、むしろ宗家の交代時よりも、革新的な王の個人的登場による。
ただ人員だけが総入れ替えとなり、旧親王家の側近がそのまま王城に入った。
ちなみに、月の塔家はレクサーンの従兄にあたる壮年の人物が継いだ。
宮廷魔術師も、冬の日の幻想を死守していた魔術師長ムラヴィールリィを留任させ、親王家の魔術師を合流させ、体制を強化した。
騎士団総括伯爵に、親王家の騎士団長だったヴェデルラーエルが任ぜられ、騎士団の陣容もほぼそのまま引き継がれる。元々イリューリ王の直参旗本の家系で構成されていた第1騎士団「王冠」のほとんどのメンバーが王の死とともに引退を申し入れたが、何人かは特に慰留され、旧親王家騎士である新メンバーの教導を担うこととなった。騎士団長ドセーフリィも、そのまま慰留によりあとしばらく第1騎士団長を務めることとなった。
第2騎士団「白百合」と第3騎士団「都」は、ほぼ無傷であったので、そのままレクサーンに仕えることとなった。
問題は、壊滅した第4騎士団「走竜」と第5騎士団「鎚」だ。
この2つの騎士団とその軍団こそが国家の主戦力であり、いまチィコーザ軍は主力を欠いている状態だ。
月の塔以外の親王家や各地の領主家からスカウトや選抜試験を行い、また自薦他薦を問わず広く全土や国外より騎士団員と軍団兵を募ることになった。ホーランコルのような不遇な冒険者が、仕官を目指して多く集まることだろう。ウルゲリアで聖騎士を断念し、地方で埋もれた冒険者をしていたホーランコルも、もしストラと出会っていなかったら、喜んで応募していたかもしれない。
また「鎚」騎士団とその軍団は対外戦闘担当であり、ヴィヒヴァルンと同盟した今、当面は国家防衛に専念するということでまずは据え置き、国家治安軍である「走竜」を早急に再編する。
そして、諜報騎士団たる第6騎士団「穴熊」も、そのまま引き継がれる。
「急いで王都に戻ってきてみれば、まさか、おれが騎士団長とは……」
王宮の客室棟の暖かいロビーで、ホーランコル、キレット、ネルベェーン、それにフューヴァとプランタンタンの前で、苦笑と素直な喜びと驚きに満ちた表情のシーキ……ズィムニン卿がそう云った。
「これまでの苦労と活躍が認められたってことだろ、喜んだらどうなんだよ!」
フューヴァの声に、ホーランコルも笑顔で、
「そうですよ、素晴らしいじゃないですか」
「そうは云っても、前の騎士団長の名前も顔も知らないような騎士団だ。ついでに、互いの顔と名前もな」
「どんな騎士団だよ、そりゃあ」
フューヴァが、そう云って呆れた。
「諜報員なんぞ、そんなものさ……」
「フ……僕や聖下と面識があるだけで、それは価値なのだ、シーキ……いや、ズィムニン卿よ」
「殿下……それに、聖下も!」




