第2章「はきだめ」 7-2 地下探査不可能領域の秘密
何のことかと、フューヴァがストラの背中を見やった。ストラは窓の外を見つめたまま、答えぬ。
「ちょっと待て、何の話だ?」
フューヴァが戸惑った。
「だからね、僕とストラさんは、既にこの街の地下でお会いし、話をつけている。君たちの出る幕じゃあないんだ。分かるだろう? 付き人ちゃん……」
そこで、笑顔は変わらないがシュベールの目つきが変わる。その異様な殺気に、さすがのフューヴァも口をつぐまざるを得なかった。
「君たちとも仕事をすることはあるだろうから、身分だけ明かそう。僕はね、フランベルツ地方伯から派遣されている者だ。目的は……この街を支配する三つの暗黒組織の壊滅さ。もう分かるだろう? ストラさんに協力を仰いでいるんだ。その代わり、無事に任務が遂行されたなら、正式に地方伯へ仕官か傭兵の推薦をする。現金報酬の用意もある。分かったら、その無礼な態度を改め、二度と口を挟まないでくれたまえ……!!」
「……!」
ゴクリと喉を鳴らし、フューヴァがゆっくりと席を立つと、部屋の隅へ下がった。プランタンタンも天井裏から下りてくる階段の途中に止まって、その薄緑の眼で場を凝視している。
少し満足げにゴブレットを傾け、シュベール、
「如何でしょうか? ストラさん……」
ストラはそこで、音もなくシュベールのほうを向いた。その冷たい鋼色の瞳に、シュベールも気を引き締める。
「地下の探査不可能領域には管理人がいて、三つの組織が地下の領域をそれぞれ三等分して、高い利用料を払って利用しています」
「えっ?」
シュベールも、いきなり具体な話が出てきて驚いた。
「か、管理人だって!?」
「ターリーンと呼ばれています。人間の姿をしていますが……生命維持機構が細胞レベルで貴方達と根本から異なり、魔力子……いえ、魔力を栄養源としています。すなわち、魔族です」
「なんですって!?」
シュベールもそうだが、プランタンタンとフューヴァも息をのむ。魔族がこの街にいる!?
「ど……どうりで、魔物なんかがフィッシャーデアーデに……!」
フューヴァが、納得するようにしてつぶやいた。
「いっ、いつから、魔族がこの街に……!?」
シュベールも、思わず席から立った。
「かなり古くから……いたようです。現在のギーランデル党首が代替わりしたときに、先代より引き継いだようです」
「そんな前から……!?」
だんだん、シュベールも素に戻ってきた。
「地下探査不可能領域は、非常に高濃度の魔力子……魔力で秘匿されています。三つの組織は、レーハーが特別な魔力を使用した依存性薬物の研究と製造に、ギーランデルは純粋に金庫として不正蓄財された膨大な量の金銀宝物を保管しています。そしてフィッシャルデアは、フィッシャーデアーデに使用する魔物や、また戦争などに使うための生体兵器としての魔物を研究、製造しています。全て、ターリーンという人物がそれぞれの組織から委託されて行っています。レーハーは、いまだ魔力異存性薬物の開発には成功していません。フィッシャルデアでも、あの私が倒した相手が、実用化第一号だったようです」
「……!? !? ……!? ? !?!? ??」
スラスラと、まるでもう直接見てきたかのように云うストラに、シュベールが衝撃で震えだした。
「えっ……ど、どうして、そんなことまで……!?」
「ハハア、分かりやした。あのまじないは、ギーランデルの親分のアタマの中をタンチ魔法で探ったんでやんすね?」
階段の途中から発せられたプランタンタンの言葉に、シュベールが戦慄する。
「頭の中を!? そっ、そんなことが……!?」
ストラは、何の感情も示さずに、続けた。
「地下へは、それぞれの組織でもごく一部の上層部しか入ることができません。また、ターリーンの協力が無ければ、入ることができません。高い魔力及び魔法で地下空間の周囲に空間位相を構築し、魔力的な鍵と鍵穴を合わせなければ入ることができません。その鍵と鍵穴は、ターリーンが常に変化させています」
「……なんと……!!」
そのままややしばらく絶句し、フー……、と、シュベールが落ち着くために深呼吸して、ワイン差しからワインを注いで一気飲みした。
「衝撃的な内容です……」
(で、やんしょうねえ……)
シュベールに同情し、プランタンタンが階段の途中からその後ろ姿を見つめる。眼を移すと、フューヴァも緊張し、硬直していた。




