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第12章「げんそう」 7-20 迎え

 と、ストラが苦悶の形相で仰向けに倒れ伏すノコォノスガンマナを見やった。


 念のためオネランノタルが近づき、その身体の上に乗ってカニの爪先で軽く肉体を叩いた。


 「死んでるよ!」


 真っ赤な髪は、半分以上も白髪になっていた。長い手は胸元や喉元をかきむしる様に押さえており、脚も地面を踏ん張っている姿勢で死んでいる。


 どれだけ苦しめば、このような姿勢と形相で死ぬのだろうか、というほどだった。


 だが、血の一滴も流れていなかった。いや、かきむしった胸元に、自分でつけた傷があるていどだ。


 魔力からエネルギーを強制的に奪われるのは、ある種の霊的な苦しみだからだ。


 もっとも、ノコォノスガンマナのレべルだから肉体が保たれている。一般の魔術師であればその衝撃に耐えられず、フランベルツの魔術師ガルスタイのように、塵も残さず原子分解するだろう。


 「フ……真に世界を破滅せしめんとする魔神の巫女など、最期はこうなる運命よ。相応しい末路に、当人も満足だろうさ」


 「埋めるかい?」

 「どうして?」

 「そうだね!」

 オネランオタルが、ノコォノスガンマナから飛び降りた。

 「取り急ぎ、王都に帰りましょう。妙な結界も消えているようですし……」

 ルートヴァンが、寒風の吹きすさぶ晴れ間を見やってそう云ったが、

 「私は、ちょっと魔力が回復するまで転送は無理だよ」

 「僕もです」


 しばらくは、ゆっくりと歩いて戻るしかないか……と、思ったその時、

 「あれっ、見なよ大公! 飛竜パラゲドルの群れだよ!」

 「珍しいですな……」

 ルートヴァンがそう思いつつ、目を凝らして、ニヤッと微笑んだ。

 「……迎えが来たようです」

 6頭の飛竜の3頭に、それぞれ人が乗っているのが分かった。

 ホーランコル達だ。


 「へえ、偽ムーサルクに忍ばせていた連中か! 迎えに来るなんて殊勝だね!」

 オネランノタルが蝙蝠翼で飛び上がり、上空で大きく回って位置を知らせた。

 飛竜が降下をはじめ、ルートヴァンも大きく杖を振った。


 翼長が5メートルほどの飛竜達が見事に着地し、その背中からホーランコル、キレット、それにネルベェーンが飛び下りた。


 そしてストラとルートヴァンに駆け寄るや片膝をつき、代表してホーランコル、

 「魔王様、殿下! 御久しゅう御座りまする!!」


 夏の終わりごろにウルゲリアで別れて以来だったので、数か月ぶりの再会だった。


 もっとも、ルートヴァンとは頻繁に魔力通話でやり取りをしていたが。

 「お前たちも、無事だったか。偽ムーサルクの動向把握任務、御苦労だったな」

 「ハハッ!!」

 深く礼をし、ホーランコル達はストラの言葉を待った。が、

 「…………」


 いつまでも無言なので、恐る恐る上目を向けると、既にストラはプログラム修復モードに入っており、だらしなく立ちすくんでゆるいガニ股で小首をかしげ、壊れた操り人形マリオネットみたいに両手を所在なく上げてカクカク動きながら、半眼で虚空を見つめていた。


 ルートヴァンがサッとストラの前に立ち、


 「聖下は、あの魔神めとの戦いで少々御疲れだ! なに……お前たちの活躍は、常に聖下の御耳に入れてある。お前たちの確実にして効果的な仕事を、聖下も御褒めであったぞ!」


 「有り難き幸せに御座りまする!!」


 オネランノタルはそのやり取りを面白く感じ、一行の上空を飛びながら、けたたましく笑い始めた。


 ホーランコルら3人が驚いて上空を見上げ、

 「あ、あれ……いいえ……あの御方が、御仲間になったという魔族ですか!?」


 「ああ、本来は人っぽい姿をしていたのだが……魔神を封じていた神殿の跡地で、封印先の魔神から攻撃を受け、死にかけたのだ。なんとか、あそこまで復活したそうだが……いつ元の姿になるのかは知らんよ」


 「はあ……」

 「ま、3人とも立て。まずは、王都バラーヂンに戻ろう」

 「ハッ」


 立ち上がったキレットが右手を上げると、ノソノソと翼をたたんだ飛竜パラゲドルたちが歩いて近づいた。


 「僕と聖下を、それぞれ乗せてもらおうか」

 「光栄至極に御座りまする!」


 キレットがそう云い、ルートヴァンとストラに魔術をかけた。魔獣使い独特の乗竜術で、ルートヴァンも知らない秘術だ。これにより、背中に乗るだけで竜が運んでくれ、落ちないうえに竜の操作も自在だ。

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