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第12章「げんそう」 7-15 空間掘削

 だが、人間ではないフローゼに毒は効果がない。また、この程度の魔力付与武器では傷もつかぬ。


 ノコォノスガンマナが、息をのんだ。

 「! おまえ……」

 「ィェヤアアァアーッ!!」


 気合とともにフローゼが連続して斬りこみ、ノコォノスガンマナは次々に避けたが、最後の袈裟斬りが大きく髪をまとめている櫛、かんざし類を叩き、真っ赤な髪がザンバラに広がった。どちらかというと緋色か朱色のフローゼの髪と異なり、まさにくれないから深い臙脂にかけての血色の髪だった。


 「きッ……貴ッ様あァああ!!」


 ヴィーキュラーガナンダレエルフにとって、髪をまとめているのが正装で、それを人前でバラけさせられるのは恥辱だった。しかも、敵に。


 「殺してやるぞ!!」

 眼をむいて、ノコォノスガンマナがフローゼに怒りをぶつけた。


 だが、フローゼにとっては勿怪の幸い。意識を自らに手中させ、その隙にルートヴァンかオネランオタルが魔法でとどめを……と、思ったが、ルートヴァンはまだ白シンバルベリルに手こずっていた。なにより、シンバルベリルなのだから、あまり強力な攻撃を加えて暴発でもされたら面倒なのだ。ルートヴァン、なんとかこの厄介な自律式魔術兵器を捕らえて封印しようと試みている。


 と、なるとオネランオタルだが。

 (そう云えば、あの魔族、なにやってるの!?)

 攻撃に加わっていないことに気づいた。まさか、逃げたわけではないだろうが。

 と、上空に渦を巻いて強力な魔力が集まっていることに気づく。

 (まさか、こいつの呪い!?)

 と、思ったが、当のノコォノスガンマナが驚いて上空を見上げたので、

 「オネランノタルなの!?」

 フローゼも、状況確認で空を見上げた。


 点のようなオネランノタルを中心に魔力が凝縮されて螺旋を描き、竜巻の直前のような軌跡を空に描いていた。


 「大公! オネランノタルが何かやるみたい!」


 フローゼが叫び、ルートヴァンも杖で白シンバルベリルの攻撃を受け続け、反撃しながら、


 「分かっている! いったん離れろ!」


 云うが、バットでボールを打つみたいにして杖で白シンバルベリルを打ち飛ばし、自らも飛翔魔法で急いでその場より離れた。


 フローゼも、ダッシュで戦闘域より離脱。


 4本の触手眼の合間のシンバルベリルを真っ赤に光らせて、オネランノタル、魔力の渦を解放した。


 まず、8本の柱というか、真っ黒い魔力の杭が落ちてノコォノスガンマナを直径20メートルほどに囲った。


 「……これでも、くらいなよ!」


 続いて、これも直径が20メートルほどもある二重螺旋の魔力の渦がさらに二重に重なった四重螺旋構造の魔力のが、直下のノコォノスガンマナを襲った。


 白シンバルベリルが急いで戻り、ノコォノスガンマナを護って魔力バリアを展開する。


 「ィィイイイーーーヒッヒヒッヒィ! クシュッシュゥウウ! ム ダ だ ね!」


 分厚いバリアが発生し、上空からの攻撃を防いだが、歯がバリアに食いこみ、ゆっくりと回転してバリアごと空間を削り始めた。


 「このまま、おまえを次元の穴の底に落としてやるよ!!」


 ノコォノスガンマナが罠より脱出しようとしたが、周囲を囲っていた8本の杭が結界を展開し、檻となってそれを許さなかった。


 (なんだ……!?)

 さしものノコォノスガンマナが、驚愕と焦りで冷や汗をかく。

 「やるじゃない!」

 フローゼが、素直に右手を上げて感嘆する。

 ルートヴァンも不敵な笑みを向けるが、油断はしていなかった。

 空間の割れる不気味な音がして、魔力バリアが粉砕された。


 白シンバルベリルが、ノコォノスガンマナの元に戻り、周囲を衛星めいて回転し始める。


 「おお……偉大なるゾォルよ……!」

 ノコォノスガンマナ、呆然として上空から迫る巨大な回転歯を見上げる。

 唐突に、白シンバルベリルが、光り始めた。

 「なっ、なに!?」

 フローゼが叫んだ。

 「暴発!?」

 「気をつけろ、魔力が妙だ! オネランノタル! いったん攻撃を止めろ!」

 魔力通話でルートヴァンも叫ぶ。オネランノタルはしかし、


 「もう、止まらないよ!」

 「では、攻撃を放棄していますぐ脱出を!」

 「暴走するよ!?」

 「いいから!」

 そこでオネランノタルも、この異様な魔力に気づいた。

 食らったことが・・・・・・・あるからだ・・・・・

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