第12章「げんそう」 7-14 反撃
「どうやって!?」
喜びを隠せぬまま、フローゼが叫んだ。
「よ、よく分からないけど、きっと何らかの法であの空間振動攻撃を中和したんだね!」
「すごすぎない!? 人間でしょ!?」
「ヴィヒヴァルンの超上級魔術師は、秘術によって魔王に匹敵する超絶大魔力を扱うっていうよ! あれが、そうなんじゃないかな!?」
「そんな都合のいい秘術があるんだ!!」
そう云いつつ、フローゼが思わず笑ってしまった。
ヴィヒヴァルンの悲しき秘術……王家の実の父親や子が、代々隔世で巨大な赤シンバルベリルと合魔魂法で一体化し、自由意思により次元を超えて超絶的な大魔力を国の上級魔術師に供給する。当然、供給されるほうもその魔王級の大魔力を人の身で扱えるよう、人間離れしたレベルで鍛えているのは云うまでもない。
「うぉっ……!」
さしものノコォノスガンマナも、この呪いをまともに食らって無事でいる人間など想定外だった。
「フ……」
いつもの不敵な笑みのまま、ルートヴァンが長い白木の杖を槍のように構え、低空飛翔魔法で突っこむ。
「私たちも行くよ!」
「了解!!」
フローゼがオネランノタルの脚を掴んでいる手を放し、自由落下で降下する。
オネランノタルも続こうとしたが、思いなおし、
(待てよ……)
シャスター市……いや、シャスターの街だったところの上空に、膨大な魔力を集め、凝縮し始めた。
(こいつを御見舞いしてまだ無事なら、まぎれもなく準魔王級だ!)
空間攻撃には空間攻撃とばかりに、準備を勧めた。
地上では、フローゼより先にルートヴァンが接近戦に持ちこむ。
(魔術師が……!)
武器を振りかざして接近戦を行うのだから、ノコォノスガンマナにとってそれも想定外だ。
魔術と云うより純粋魔力によって直接強化された白木の杖は、もう特殊カーボン製と云ってもおかしくない強度としなやかさを持っていた。
ルートヴァンは、魔術のレベルも然ることながら、こういう時のためにアーレグ流杖術も免許皆伝の腕前である。云わば魔法戦士ならぬ、魔法武術家と云っても過言ではなかった。
ノコォノスガンマナの「呪術」は、どうしても即効性に欠ける。次の呪いの発動まで、時間を稼ぐ必要がある。そのための特殊な武器にして呪物が、魔神ゾォルより賜った白シンバルベリルだ。
槍の穂先のように魔力を凝縮させたルートヴァンの杖の一撃を、浮遊していた白シンバルベリルが魔力の盾を形成して防いだ。飛翔状態で突撃を止められたルートヴァン、すかさず杖を振り上げ、着地すると同時に白シンバルベリルに叩きつけた。
魔力と魔力がぶつかり合い、白シンバルベリルが地面に突き刺さる。
シンバルベリルがすぐさま浮遊したが、その一瞬の間に、ルートヴァンはもう一足で間合いを詰め、ノコォノスガンマナの横面めがけて杖を振りかざしていた。
常人相手にただの木の杖を使っても、こめかみにそんな攻撃を食らったら即死する可能性もある。
ノコォノスガンマナは無防備だったが、そこはエルフ特有の反射神経で後ろに下がって避け、その間に白シンバルベリルが怒り狂ったかのようにルートヴァンに襲いかかった。
「チィ!」
ルートヴァンが杖の中ほどを両手に持ち、両端を使ってシンバルベリルの猛攻を受け続ける。
シンバルベリルは魔力を帯びており、それで自らを護りつつ、攻撃力にも変えていた。鉄球がごとき「重さ」に、杖がしなる。それが、眼にもとまらぬ速度で繰り出された。
その隙に、ノコォノスガンマナが再び唸るように歌いながら不思議な踊りを開始した。
空間雪崩など用意している暇はない。
対人用の、小規模な呪いだ。
「そうはさせるかってえの!!」
真上から焔刀を振りかぶったフローゼが降ってきて、大上段からノコォノスガンマナを襲った。
気配を察知し、踊りを止めて大きく飛び転がったノコォノスガンマナに、地面がへこむほどの着地斬撃を放ったフローゼがすかさず追い打つ。
「ゥウアア!!」
刀身の焔が冷たい空気に陽炎を発し、凄まじい連続斬打が長身のエルフを追い詰めた。
たまらず、ノコォノスガンマナは肩から下げた飾り紐のような帯に結んでいた細い短剣を二本抜き放ってそれぞれ両手に持ち、
「ヒュ!!」
フローゼの刀を受け流しつつも即座に体を入れ変えて間合いを詰め、フローゼの左腕の肘の辺りを切りつけた。魔力をまとわせて剣を強化し、さらにその魔力は魔毒でもある。




