第12章「げんそう」 7-13 中和
「……確かに。ここは、飽和攻撃と行きますか!」
「了解だよ!」
オネランノタルとルートヴァンが魔力を高め、まずオネランノタルがマイナス200℃にも及ぶ急速冷凍波、ルートヴァンが時間差で1500℃にもなる熱攻撃を叩きつける。温度差で、どんな物体も原子から砕ける。
その攻撃を察知したフローゼが、ぎりぎりまで斬撃で白シンバルベリルをひきつけつつ、飛び退っていったん離れた。
空気をも液化させる極低温の塊が、真上からノコォノスガンマナに落ちた。圧倒的な瞬間冷凍により、生身のノコォノスガンマナなどそれだけで全細胞が爆発するが、やはり白シンバルベリルが物理的かつ魔力的に防いだ。すぐさま発生した液体空気から沸点の差で窒素等が抜け、純粋液体酸素濃度が高まる。
その瞬間、ルートヴァンが熱線を御見舞いした。
熱爆発に加え、細かい霧状になっていた半液体酸素が誘爆し、フローゼですら爆轟でぶっ飛ぶほどの大爆発が起きた。
衝撃波が、すっかり更地になったシャスター市の中心部をなめ、かろうじて残っていた周辺建物や逃げ惑う人々を吹き飛ばした。
魔力バリアで爆轟を防ぎつつ、オネランオタルとルートヴァンが慎重に観察する。
「……やったかい!?」
「いえ、シンバルベリルが誘爆してませんな。悔しいですが……効果なしかと」
「まじかあ」
オネランノタルがむしろ呆れて、上空から猛烈な白煙を上げる爆発の中心地を見やる。
「どうやって防いだんだろ!?」
「よくわかりませんが……呪いの影響の空間振動効果で、防御したのかと……」
「ずるいなあ、攻防一体じゃないか!」
「そのようで……」
と、ついにその呪いが発動した。
地震のように地面が揺れたが、空間振だ。
「くっ、来るよ! 空間雪崩かい!?」
「ですな!」
「フローゼ、こっちだよ!」
オネランノタルが、爆轟に飛ばされたフローゼに向かって飛んだ。フローゼは起き上がったばかりだったが、グラグラと周囲の空間全体が波打つように細かく歪んでいるのを確認し、焦った。
「フローゼ!」
オネランノタルが空中を飛んで近づき、フローゼが左手を伸ばしてその脚を掴んだ。
すぐさまオネランノタルは上昇して、フローゼを持ち上げつつ上空に避難する。
「……大公は!?」
「逃げてるはずだけど!?」
「どこにもいないじゃない!」
「ええッ!?」
地上を見ると、ルートヴァンがまだ地面にいた。
「なにやってるの、あの人!!」
だが、オネランオタルはルートヴァンの意図を瞬時に理解した。
「助けなきゃ!」
「待って! ……大公は、空間雪崩を耐えて、硬直で無防備のアイツを攻撃する気だよ!」
「なんですって……!!」
フローゼが眼をむいて地上のルートヴァンを見やった。
「危険だって!」
「でも、もう遅いよ!」
爆発の中心を起点に、波紋が広がるようにして幾重もの空間雪崩が発生した。
「うわっ……!」
フローゼが、上空にも津波めいて迫ってくる空間崩壊の波に震え上がった。あれに触れると、問答無用で空間ごと粉々だろう。
オネランノタルが無言で、一気に上昇する。
200メートルほども逃げると、上方向への空間雪崩は動きを止めた。
下方を確認すると、地面すら数メートルも抉られ、シャスターの街は完全に空間振動に削られて、ドーナツ生地を丸い型抜きでくり抜いたかのように、地面に巨大な〇が形成されていた。
「何なの……あれ……!!」
フローゼが震撼し、オネランノタルも驚愕を隠せぬ。
「あれが……王家の主力を壊滅させた、魔神の呪いだよ……!」
「呪い!? 呪いであんなことができるっていうの!?」
「単に魔力の使用では、ああはならないね! どういう術なのか……大公なら分かるかも!」
フローゼが息を飲み、
「そっ、その大公は!? 無事なんでしょうね!?」
「……さあね……!」
「そんな……」
だが、杞憂であった。
杖を掲げたルートヴァンが、一帯がきれいに削られた荒野の中に立っている。




